医局へと続く廊下の窓から見える夕陽が、今日は一段と美しい…。

その美しさに目を奪われ、
ほんの少しの間、オレンジ色に輝く夕陽を眺めていると、
大きな紙を携えた山崎先生とすれ違った。

山崎先生、おつかれさまです。

おつかれさま。

その大きな紙は何に使うんですか？

あっ、これ？ これは今度の学会で研究テーマを発表する時に使うポスターだよ。

えっ！学会ってスライドを使って発表するだけじゃないんですね？

そう。発表スタイルにもいろいろあって、 演台に発表者が立ち講演する 『オーラルプレゼンテーション（口頭発表）』と、

発表内容をまとめたポスターを会場の壁などに貼り付けて 発表者はそのポスターの前に立って、説明してほしい方にその都度説明する 『ポスタープレゼンテーション（ポスター発表）』があるんだ。

今度の学会ではポスタープレゼンテーションだから、その準備のためにね！

発表の仕方が違うんですね。基本的に何が違うんですか？

オーラルプレゼンテーションではスライド10枚程度の発表が普通だから、 スライドが終わってしまうと見たいと思ったスライドがあっても じっくりと見ることができないんだよね。

その点、ポスタープレゼンテーションの場合は、 知りたい情報をじっくり何度でも見ることができるから、 発表者と聴講者の距離はポスタープレゼンテーションのほうが近いかもね。

なるほど。

それにね…

と後ろから現れたのは、南之方先生だ。

ポスタープレゼンテーションの発表時間は、 だいたい5分程度が普通で進行してくださる座長の方もいるんだよ。

スライド発表に比べて、座長の方も事前に内容視察が可能だから、 あらかじめの質問等を考えやすいね。

オーラルプレゼンテーションもポスタープレゼンテーションも いずれも抄録を提出はするんだけど、 内容をあらかじめよりよく理解するにはポスターの方がいいかな。

そうなんですね。

最近はポスタープレゼンテーションも事前登録すれば デジタルポスター化できるから持参する手間が省けるんだよ。

特に国際学会とかは煩雑だから、持参の手間が省けるのは大きいね。 ただ、発表直前まで修正したりできないし、 発表よりかなり前に完成してなきゃいけないから、逆算して完成させる必要がある…。

あと、国際学会では、ポスタープレゼンテーションは 発表の時間がなく貼るだけで終わりで、 質疑応答がないから緊迫感や深みって面では欠ける場合もあるね。

へぇ〜。知らなかったです。

発表形式はその学会によって違うんだけど、 シンポジウムやパネルディスカッション、 ワークショップが一般的には上級演題って言われてて、 その時々で問題になってたり、テーマとなりやすい話題を持ってくることが多いね。

それに、ビデオワークショップやビデオシンポジウム、 いろいろな国の人たちがディスカッションする国際シンポジウムってのもあるんだよ。 一般的に上級演題は、オーラルプレゼンテーションでスライドを用いて発表するスタイルがほとんどだね。

学会でプレゼンテーションするなんて、カッコイイですよね。

桐野くんも他人事じゃないよ！ 実際、医学部の学生が発表するセッションや研修医のセッションもあるからね。

年齢が近い先生方の発表や質疑応答の態度を見聞きするのも、 すごく勉強になると思うよ！

研修医のセッションもあるんですね！

それに、優秀な発表には優秀賞が与えられることもあるしね！ 優秀賞を目指して取り組んでいるんだけど、 全国から様々な優れた発表があるからなかなか難しいんだよ。

研修医や学生セッションでも発表後に質疑応答ってあるんですか？

もちろん！ 自分の研究に興味を持ってくださった先生から いろいろな質問があるし、 時にはエキサイトして活発な質疑応答になることも多いよ。

そうなんですね。

そうだ、研修医や学生セッションのある学会が年に数回あるんだけど、 僕がサポートするから今度発表してみない？

本当ですか！！！

おっ！やる気があるね！

…あっ、はい…。 なんというか…。実は、懇親会の方に興味があって…。

なんだ、そっちか（笑）。 でも、外科の雰囲気に触れるのにはとても良い機会だからね。

…あっ、あと、もう一つ質問が…。

…？　なに？

ちなみに、発表は英語…ですよね…？

研修医や学生セッションは英語での発表じゃないから大丈夫だよ（笑）

…よかった…。 以前から江良井教授に英語を勉強します！って宣言しちゃったのですが、 なかなか進んでいなくて…。

　その時、ちょうど江良井教授が僕たちの近くを通りかかった

桐野くん…！ 私の名前を呼んでいましたが、何かご用ですか？

い、い、いや、あの、その。 今、ちょうど先生たちに 学会でのプレゼンテーションのお話をお聞きしてまして…。

今度の学会での発表ですか…。

（よかった！なんとか、ごまかせた…）

山崎先生・南之方先生、順調に進んでいますか？

はい！

では、優秀演題賞はもらったも同然ですね！

がんばります！

桐野くんも、ゆくゆくは優秀演題賞を受賞してくださいね。

はい！今はまだまだですが、将来は…狙いたいです！

その通り！目標は高ければ高い方が良いですから。 最近は医学部の学生も多く学会にて発表していますよ。

学生は特に参加費を安くするなど、 どんどん若い人にチャンスを与えたいと思っています。 この前の日本消化器学会でも「春夏秋冬、心技の継承」がテーマだったように、

若い方々の成長を支え、医療の心と技を伝えていく！ という思いが込められていましたからね。

……がんばります！

ところで… 優秀演題賞を狙うには英語での発表が必要ですが… 英語の勉強は順調ですか？

い、い、いや、あの、その…

桐野くんは、優秀演題賞を狙う前に 英語をしっかり身につけないとですね！

は、は、はい……。

　研修医や学生でも学会で発表ができるチャンスがあるなんて。
今も同じ年代の人たちが学会で発表するために研究を積み重ねている！

　そう思うと、負けられないと言う気持ちがふつふつと湧いてきた。




　でも、まずは英語から…。そう思うと、さっきまで湧いていて気持ちがウソのように…。