鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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特選コラム

~人生は人とのつながりと思いやり~


 鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科学の佐々木健と申します。
 拙文で恐縮ですが、私の海外留学経験とそれについて思うことを、これから海外留学する可能性のある先生方や学生の皆さんのために紹介させて頂きたいと思います。
 私は、1999年に佐賀医科大学(現在の佐賀大学医学部)を卒業し、同年春より5年間、都立駒込病院(現在のがん・感染症センター都立駒込病院)で研修後、2004年に現在の教室に入局しました。
 その後、7年間の臨床経験、2年間の学位取得目的の研究期間を経て、2013年7月から2015年6月までの2年間、整形外科医の妻・4歳の長男・2歳の娘とともに米国カンザス州のカンザスシティにあるカンザス大学メディカルセンターのCancer Biology部門に癌基礎研究目的で留学し、Danny R. Welch教授に師事しました。

 カンザス大学メディカルセンターは、米国内に68施設ある国立がん研究所指定がんセンターのひとつで、病院と基礎研究施設が併設されており、臨床研究とがんに関する分子生物学的基礎研究が横断的に統合して行われています。Cancer Biology部門は6つの講座から構成されており、そのChairを勤めるDanny R. Welch教授は腫瘍の転移分野では世界的に名の知れた研究者であり、同研究室では転移抑制因子の同定・機能解析、がん代謝を中心に研究が行われていました。
 私はマウスの肝転移モデルを用いたゲノムワイドshRNAスクリーニングによって同定された膵癌肝転移抑制因子についての研究を行いました。
 途中、あまりにも思うような結果が得られないため、ボスからプロジェクトの中止と変更を提案され、もがき苦しんだ時期もありましたが、研究室メンバーとのディスカッション、その後の新たな研究計画書の提出により、何とかプロジェクト継続の許可を頂き、最終的には何とかいくつかの結果を導き出すことが出来ました。仮説を立てる、それを立証するための実験計画を立てる、くまなく情報収集する、得られた事実を冷静にまた客観的に考察する、それらをわかりやすく説明する、といった実験から論文作成までの一連の考え方を学び・実践できたことは、これからの私にとって大きな自信となります。
 その他、大学内で毎週1回開催され誰でも気軽に参加できるランチ付きのセミナーは、あらゆる分野の基礎研究の情報収集、英語の苦手な私などにはリスニングやプレゼンテーション方法の習得など非常に有意義なものでした。







○自分で受け止められる強さ
 海外留学の目的は人それぞれでしょうからこれについては触れませんが、もし海外留学に興味があるのであれば是非挑戦して頂きたいと僕は思います。
 “やらないで後悔よりやって後悔”です。
 最終的には自分で決断し、自分が決断した結果がどうであれ自分で受け止められる強さが必要だと思います。留学すると決めたら、留学先の選定、GrantあるいはFellowshipの申請による留学先での研究費・生活費の確保、留学先のPrinciple investigator (PI) とのポジションや給料の交渉です。
 私は幸いにしてPostdoctoral Fellow(ポスドク)として留学することが出来たため、贅沢は出来ないまでも最低限度の生活を維持することは出来ました。


 ポスドクの給料はPIの研究資金から支払われます。PIは研究資金はもちろんのこと、大学院生の給料と授業料も捻出しなければならず、常にGrant等の資金獲得に必死です。留学期間中に数名の日本人PIに会う機会がありましたが、米国で生き残って行くためには相当な能力と努力、そして運が必要であるのだなと感じました。
 私が留学した2013年はWelch教授を筆頭に、ポスドクが5名(米国3名、中国1名、インド1名)、米国人の大学院学生が4名というメンバー構成でした。その他にも近隣の高校あるいは全米の大学から学生たちが夏休みなどの休暇を利用して短期研修に訪れ、プロジェクトの一部を担い研究を行います。
 米国の研究室はメンバーの出入りが激しいと聞いてはいましたが、実際にその通りで、13年当時の5名のポスドクたちは皆わずか2年の間に、新しい研究室や企業へと去っていきました。
 それも一部の研究者は、Two weeks notice (辞職2週間前の予告)という最低限のルールに則って突然去っていきました。日本ではとても考えられないことです。
 あと、自分が行うであろう研究領域の基礎知識と英語力は絶対に必要です。
今後、米国へ留学するためにはある条件以上の英語力が必要ですので、英語が苦手な方は前もって準備しておくことをお勧めします。





○海外留学の魅力
 研究はもちろんですが、日本では知ることの出来ないその国の歴史・文化・自然などを満喫できるのも海外留学の魅力です。
 2014年のカンザスシティ一番の出来事と言えば、日本の誇る安打製造機、青木宣親選手の所属する、MLBカンザスシティ・ロイヤルズの大躍進です。
 惜しくも世界一は逃しましたが、29年ぶりにワールドシリーズに進出し、カンザスシティも我が家も大盛り上がりでした。



 この写真は、アメリカンリーグ優勝決定戦の時のものですが、ウェブ上で、“日本からツバメ党も駆けつけ、「青木宣親」と書かれたヤクルト時代の応援旗や「かっとばせ青木」のプラカードも登場した。”と紹介されました。
 その他、米国ならではのキャンピングカーでの国立公園巡りや豪華客船を利用したアラスカクルーズで目の当たりにした大自然や野生動物たちには、ただただ言葉を失い圧倒され荘厳さに感動せずにはいられませんでした。





 留学期間を終えて思うことは、教授をはじめとする医局の先生方、多くの方々のサポートによりこのような貴重な海外留学をスタート・経験することができ、研究や私生活で挫折しそうになった時にはラボメンバーや友人に支えられ、帰国後もまた、留学前と同じ環境で仕事を再開でき、本当に周囲の方々の支えにより私達家族の留学生活が成り立っていたのだなということです。

 留学中は、医師、商社マン、IT企業や保険会社に勤務する方々、弁護士、エンジニア、教師などあらゆる職種の日本人・米国人と家族ぐるみのお付き合いや情報交換をすることも出来ました。また、米国での生活、多国籍の人々との交流によって、自分が日本人であること、日本の素晴らしさ、自分は日本という国に守られているのだなということを再認識しました。

 人生の喜びは、人と人とのつながりと思いやりの大きさで決まるのではないかと思います。
 海外留学で得た貴重な経験を糧に、これからの今日、この日をしっかり生きて行くことができればと思います。

 

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