鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
閉じる
▲TOPページへ


閉じる
ゲカイチでは他県で外科医として活躍され、鹿児島へ戻ろうと考えられている先生方に、留学や博士号などのご要望について、医局長が直接ご相談にのっています。
>>メールで相談する

ゲカイチ

Vol.15

ー 続:“寄り添う”こと。 ー



 
 

 雨上がりの五月、すっかり景色を変えた桜の並木通りを歩きながら、
無事に終わったゲカイチの花見を思い出していた。 
 結局、喜例先生は多忙の為不参加になり、それが唯一の心残りだった。

 その時、後ろから「よ!」と背中を叩かれた、その元気な声と、
背中に広がる小さな痛みで、すぐにわかった。
偶然とはいえ、悪い気はしなかった。
喜例先生だ。




 

桐野 いま、ちょうど先生のことを考えていたんですよ
 
桐野 またまた~、ほんと?
 


 


本当だ。先生がバス停から歩いてこの道を通り、 病院に通っていることを知った次の日から、
僕もこの道をつかっている。少し遠回りなのだが。

とは言え、ようやく逢えた。





 

桐野 そういえば、気になっていたのですが、
その後、例の癌患者さんはどんな調子ですか?。
   
 



本来なら、昨日観たテレビ番組や、最近見つけたオススメのレストランの話など、
気の効いた話をした方がいいのかもしれないが、
これも小さな「自覚」の芽生えなのか、単なる好奇心か、
喜例先生の担当していた癌患者さんのことが気になって、率直に聞いてみた。
 




 
桐野

うーん。ようやく、家族も落ち着いた頃ね。
この前は、医者と患者の付き合い方について、
“寄り添う”ことの説明をしたよね。
医者とその家族、または癌患者とその家族、
このへんの関係も凄くデリケートなのね…


 

と、喜例先生がはなしている途中で、犬の散歩中の中年女性にスレ違いざま、声を掛けられた






「あ、おはようございます」

 見知らぬ顔。


同級生の母親だろうか、色々と思いを巡らす先に、
喜例先生が「おはようございます!」と挨拶を返した。


「先日はどうも…ありがとうございました」と中年女性と立ち話が始まった。



偶然は連鎖する。
 たまたま出逢った喜例先生と僕。そして…。

話から察するに、たまたま出逢った中年女性は、
(会話から察するに)どうやら例の癌患者さんの奥さんのようだ。



 少しだけ距離を置いて、僕は二人の会話が終わるのを待った。
思いのほか、明るい表情の奥さんを見て少しホっとした。




 しばらくして、会話が終わり「ゴメンね」と、

声を出さずに口だけを動かしながら喜例先生は僕に追いつく。
その向こうで、奥さんは何度も会釈を繰り返していた。


 

 
桐野 御家族の方も、もちろん辛いとは思うけど。
家族として(患者さんに)“普段通りに”接することが大切なの。

その為のケアも、医者の大切な役目なのよ。
 
桐野 ま、こうやって唐突にオンとオフを切り替えたり、
繰り返したりするのは、 けっこう大変だけどね。




と言って喜例先生はあどけなく笑う。



その時、後ろから「おはようございます」とまた声を掛けられて、

振り返ると、分厚い辞典を小脇に抱えた伊口先生が居て、その隣りには野口先生も一緒だった。




 
桐野 あら、相変わらず仲良さそうじゃない
 
桐野 お久しぶりです!





 野口先生とは、イカ部屋以来の再会で(Vol5参照)、
伊口先生にいたっては去年のバーベキュー以来だ(Vol4参照)。


 同期の川口先生が留学に出て、一歩先を越された格好になっている彼らはライバルに負けじと必死になっている、と半田先生から聞いたことがある。




 
桐野

さっきの女性の方、なんだか嬉しそうな様子でしたよ、
何かいいことでもあったのですか?

 
桐野

別に。いつも通りに接しただけよ。

 
桐野

たしか患者さんの奥さんですよね?
何度か病院で見かけたことがあります。

 
桐野

ああ…、そうか例の患者さんか。
つまり、喜例先生は、奥さんの“ケア”をしていたわけだ

 
桐野

ま、そんなとこね。




 

野口先生、伊口先生。流石の記憶力と鋭い推測力。
アっという間に現状を理解して、状況を共有している。



一般に癌患者さんの家族には、2つの側面があるといわれている。
1つは患者さんにケア(精神的支援、経済的支援など)を提供する側面。


2つめは「第2の患者」として“心のケアを必要とする側面”。

 実際の医療の現場では、
家族は患者さんのケアの提供者として扱われることが多く、
第2の患者としてのケアが足りていない場合も多いそうだ。

だからこそ、喜例先生は積極的に家族と触れあい溶け込もうと心がけている。





 
桐野

じゃあ、今度は僕らのケアもよろしくお願いします、
川口先生に置いていかれてるようで、
実は結構焦ってるんですよ。

 
桐野

そうなんですよ。比べても仕方がないのはわかってはいるんですけど。
どうしても、ね。




 

と言って二人は向き合い、バツが悪そうに頭をかいている。


 

 
桐野 ふふふ。
 
桐野 笑いごとじゃないですよ!
 
桐野 こっちは真剣なんですから!




それを聞いた喜例先生は余計に笑った。
二人の先生の気持ちはわからなくもないが、
あまりに息が揃い過ぎていて、
まるで若手漫才師のネタを見ているようだったから。

 患者だけではなく、その家族も、
またはそれに関わる医師にも“ケア”は必要なのかも。

二人の先生もおどけてはいるが、案外、そんな風に考えているのかもしれない。




そう。
ゲカイチのチームワークは素晴らしいのだ。
その証拠に、喜例先生が楽しそうに笑うのを見て、
二人の先生もさらに笑っている。
 

 そんな様子を見ながら、僕もいつか喜例先生からケアを求められる医師になれるかなぁ…。

なんて思いながらいっしょに笑っていた。




 

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学

TOPページへ


ページの先頭へ戻る

ページの先頭へ戻る