鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチ

Vol.13

ー 肝臓と再生とスタート。 ー




 冷たい冬の風が止み、陽光に照らされた桜の木の枝先で小さな蕾が膨らむ頃、
町では別れと出逢いが交錯し始める。

過去を思い出して懐かしむのと同時に、新たなシーズンに向けて、気合いも入る。
 そんな中、いつになく慌てた様子の半田先生から、書類整理の手伝いを頼まれた。

そして、デスクの上で山積みにされたファイルの中から、
指定された封筒を探しているときに川口先生が海外留学に行くことを知らされた。



 

どうしよう。川口先生がいなくなっちゃうの
 



正直、驚いた。そして翌日、さっそく川口先生のもとを訪ねる。

そこには森熊先生も居て、ちょうど雑談をしている最中だった。



 

桐野 川口先生、いま、時間大丈夫ですか?


 
おお、桐野くん、元気かい?珍しいね、どうしたの?
 
久しぶりだね桐野くん、しっかりとやってるかい?
 
桐野 昨日、半田先生から
川口先生が海外留学に行くことを聞いて、
お別れの挨拶に来ました。
 
わざわざ、ありがとう(笑)

でも、留学といっても半年間の短期留学だよ。
ステップアップの為に、ちょっと空気を変えようと思ってね
 
半年なんてアっという間ですよ。
女の子に現を抜かさずにしっかりやらなきゃ、
君の場合、そこが少し心配だけどな(笑)
 
桐野 全くホントね。

違う修行をしてこなけりゃいいけど(笑)
 
大丈夫ですよ。
そっちの修行は終わったので、
次は医療関係のステップアップに励んできますから(笑)
 



森熊先生と喜例先生のちょっと意地悪なツッコミを
なんとかかわす川口先生を見て、
僕は思わず笑ってしまった。
 




 
桐野 半年とはいえ、やはり少し寂しいですよ。
ゲカイチ的にも戦力ダウンは否めないはずです。
 
お世辞とはいえ、そんな風に思ってもらえて嬉しいなあ。

 



去年、入局した研修医の川口先生は
与えられたチャンスを的確にモノにする技術と知識と感覚を備えていて、
年齢もそう離れていないことから、僕にとっての身近な目標であり、尊敬出来る先輩だ。

その点は、森熊先生もお墨付き。川口先生の技術はもちろんのこと、
知識、姿勢、どれを取っても若手の中では群を抜いている。
 

 
ま、冗談はさておき。
しっかりと頑張ってきて下さい。
君の背中を見て育つ後輩もいることですし。
なあに、大丈夫、君ならきっと短期間で
一回りも二回りも大きくなって帰ってくるだろうからね。




 

森熊先生は川口先生の肩をポンと叩き
「じゃ、次の手術の準備があるから」 と部屋を後にした。

先輩とはいえ、まわりの先生からの信頼や期待の大きさにはなんだか嫉妬を覚える。






 
桐野 そういえば、川口先生、
彼女さんとは遠距離になるんですか?
 
その話なぁ…なかなかまとまらなくってさ。
昨日ももめたんだよ。




 川口先生はファンも多く、ゲカイチチームの中でも断トツの”モテ男”だ。
それも僕が尊敬する理由のひとつ。
異性にも同性にも評判の良い人間はそう多くない。




 
結局、肝臓なんだよなあ。



 

肝臓?

これは今、川口先生が置かれている状況を臓器に例えたのだろうか?
その辺の思考感覚も、若手のホープと称される所以。

まるでベテランの先生と同じ思考回路で実生活と仕事を結んでいるように思える。





 
桐野 肝臓、、、ですか?
 
そうそう。肝臓。肝臓って体重の2%前後の重量なのね。

60キロの人の場合でだいたい1.2キロ、つまり身体の中で最も重たい臓器、
そして肝臓には”再生”という特徴的な機能が備わっているのがミソだね。
 
 例えば手術で4分の3切り取ったとしても、
正常に機能すればその4分の1が元の大きさ、働きに再生するの。
 
どう?それって凄くない?

まさに人体の神秘、面白いよね



 

ジェスチャーを交えながら
子供のように陽気に語る饒舌な川口先生の言葉を、
頭の中で素早く整理しながら僕は頷き続けた

「はい、はい」






 
もちろん症状によっては、
再生のスピードやその後の状態に違いはあるものの、
初めから患部の大きさと場所によって肝臓の切除位置を見極めて、
切除後の働きを推測して手術療法の適応を決める。
 
つまり、何が言いたいのかというと、、、、、、




 

思わず唾を飲み込む。







 
僕がいなくなったところで、
彼女も、ゲカイチのメンバーも。
つまり君を含む僕の仲間も、
肝臓のように、元の形に戻ることが理想なんだけどな。
 
桐野 はあ、、、、
 
まぁ、すぐに帰ってくるさ。
だから、居なくなる僕の分を埋めるつもりで頑張ってくれよ。

頼んだよ、未来のエース!




 

“若手のホープ”から唐突に”未来のエース”と呼ばれて舞い上がってしまう。






 
桐野 は、はい!任せてください! 現場も、彼女さんのことも!


人の恋路にまで余計にハミ出してしまうのが僕の素質がまだまだ足りないところだ。




 
え、それも任せていいの?

君に?

川口先生もトボけている。





 
桐野 あ…。



 

窓の外では桜がつらつら咲き始めていて…。そろそろ春が始まっている。

再生…。
いや、むしろこれは進化の過程なんだと思いたい…。






 
桐野 そうそう、桐野くん。未来のエース、桐野くん?


 

バツの悪い顔で振り向くと、喜例先生が真面目な顔で座っている。




 
桐野 川口先生も次のステップにいくことだし、
君も次の段階にいくころかな? 

ちょっとつきあって欲しいことがあるんだけど?

こういうときの喜例先生はなんだか迫力がある。

僕は返事をせずにうなづいて
喜例先生と一緒にこの部屋を出ることにした。




 

 

 

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