鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチ

Vol.12

ー 生きる。そして役割。 ー




 毎年恒例のゲカイチチームの新年会に参加させてもらった。
普段、厳しい顔をした先生たちが皆、表情を崩して楽しそうに世間話をしたり、
近頃の外科の動向や、若手医師、学生への接し方についてあれこれと語ったりしている。 

それに、いつもは絶対に笑わないと思っていた先生の笑顔も見れて、なんだか少し得をした気分になった。
 僕は、隣りに座った半田先生と年末に訪れた奄美の話で盛り上がった。

 僕はあれ以来、釣りの魅力に取りつかれていて、
餌や釣り場についてアレやコレやと半田先生に説明していたのだが、
半田先生は大川先生のことが気になる様子で、 釣りの話に対しての食い付きは甘かった。



 

大川先生は元気にしてた?
 
はい、とても元気で遠洋マグロみたいに活き活きとしていて、
島民の方からも信頼されていましたよ。
現実や環境を楽しんでいる様子がビンビン伝わってきました!
 
・・・そうか、そりゃ良かった。
大川くんも最初はそれほどうまくいっていなくて大変だったんだよ。

奄美に赴任当初は設備も技術も知識も経験も何もない状態で
自暴自棄になりかけていたからね。
現実を受け入れて”楽しむこと”を思い出してくれたんだろうな。
 



 そう語る半田先生の横顔はなんだかとても嬉しそうで、
右手に握られたグラスの中の酒の減りがいつもより早く思えた。



 

桐野 楽しむこと・・・ですか?


 
そうだ、社会組織や人生ってIPS細胞と似たようなもんなんだよ。
覚えてるだろう?
去年、ノーベル賞を受賞した山中教授が研究しているIPS細胞を。
 



 話がややこしくなりそうな気がして、
僕は無理矢理「釣り」の話を続けようとしたのだが、
一度回転を始めた半田先生の頭脳はそれを許さない。

アルコールの力も借りて、いつもより滑らかに回る頭脳と舌が、 独創的な持論に拍車をかけた。
 



 
私たち人は、脳や脊髄、皮膚、心臓、肝臓などなど
様々な臓器や組織で出来ているわけだが、
もとは受精卵という一つの細胞だったわけだ。
 
 その受精卵が分裂を繰り返して、
ある細胞は皮膚に、ある細胞は肝臓になる、
そうやって役割が決まって身体が出来る…。
 
わかるかな?水割りのお代わりを注いでください

 


はいはいと頷きながら、僕は半田先生のグラスになみなみと酒を注いだ。
 

 
そうやって一度役割が決まった細胞は、どうやっても他の役割の細胞にはなれない。
つまり受精卵のような細胞には戻れない、と考えられていたんだ。
 
 ところが、かの山中先生は、役割の決まった細胞を受精卵に近い、
つまり役割の決まっていない状態に変化させた。
それがIPS細胞なわけだが…、

奄美に赴任当初の大川先生はまさにその状態だったんだろうな。


 
・・・。 
一度与えられた役割を初期化して、
あらためて新しい役割を与えられた状態というわけですね
 
そういうこと。
 つまり、それはある意味、社会組織や人の人生と同じようなものだ。

 人それぞれに役割が与えられ、それは時に、それまでの暮らしを"初期化"させるほど、
急激な変化を与えるかもしれない。
 
 しかし、与えられた状況を受け入れてそれを全うすることで、
その中に喜びを見出し、楽しみに繋げることが大切なんじゃないかと思うよ。
 
 それに山中先生自身、もともとは整形外科医だったのだけれど、
実は手術が苦手で今の研究にすすみ、基礎研究でノーベル賞を受賞したという、
その軌跡も捨てがたい。

この世界は可能性に充ちているんだ




 

 酒に酔っているとはいえ、まったく的外れなわけでなく、大切なことを言われた気がした。
そして、なんだか納得出来る気もした。


そういえば、、、、、






 
桐野 確かに!僕も最近、現状を楽しむ努力をしているせいか、
好みのタイプの女の子と出逢う機会が増えた気がします。
 
桐野 ということは…

「モテ男」の役割が僕に与えられつつあるんですね!
 
、、、、う~ん、おれの話、ちゃんと伝わってる?




そのとき(笑いを堪えながら)
僕と半田先生のやりとりを向い側から眺めていた江良井教授が言った。


 
そう、そう。まずは小さなことから。
頑張りなさい若者よ。

 桐野君の年末の大島での経験も、普段の学校での勉強も、
こういう場所での先生方の何気ない言葉の中にも、
発見と学びのチャンスがたくさん転がっているんだ。


 
 それに気付いて、自分なりに解釈していくことが大切なんだよ。

 というわけで、この次は、カラオケに行く予定だけど、 
僕や半田先生の歌声から、何を学ぶことが出来るかな?




 

 それを聞いた僕は、今夜くらい肩を組んで唄っても怒られないような気がした。
そのくらいのチャレンジ精神も、若者には必要なのだ。


だから…、明日の朝寝坊は仕方ない、今を楽しむことに決めた。




 

 

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