鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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Vol.92

ー 外科医の手。 ー



  夏も本番。セミの声にも慣れてきた。
今年の夏は、めずらしく空梅雨続き、せっかくの晴天続き。
 あぁ…こんな日には、出かけてたくさんの人と話をしたい…。

 そんな僕を笑うように、病院から見える桜島は嫌味なくらいの青空をバックに僕を見つめている…。
てなことを考えつつ、これでもかと照りつける太陽を恨めしそうに眺めながら食堂に向かう。

 よし、今日の日替わり定食は好きなメニュー!
ランチを済ませたら、気分を入れ替えてがんばるか!
  先週、難しい言葉を覚えようと買った『ことわざ辞典』を手に食堂のドアを開ける。
誰に言い訳するわけではないが、決してモテるためではない。
忙しい合間をぬっての昼時の読書は唯一の楽しみなのだ。







辺田

お、ランチかい?いいね!








 

 忙しそうに廊下を早歩く辺田先生。
かなり忙しくても、なぜか顔が嬉しそうなのが先生の不思議なところだ。







 

辺田先生!
緊急手術だったんですか?







辺田

そう!
さっき消化管穿孔の手術が終わったとこなんだけど、
今病棟の看護師さんから呼ばれてね。
今日も病棟の仕事はいっぱいだよ!







さすが、先生。大変ですね!







辺田

んーまぁね!大変かな!









 と言いつつも辺田先生の顔からは、患者さんに必要とされて充実している様子が伝わってくる。








なんか、うらやましいです。
『手を休める暇がないのは外科医にとって幸せなこと』
という言葉を最近知りました…。







辺田

ははは、まだ桐野くんには早いかな(笑)。
そうだ、もうすぐ交替だから食堂で待っててよ!









 後ろ向きに手を振りながら、足早に病棟に向かう辺田先生。
なんかかっこいい…。











 
辺田

ちょっとお待たせしすぎたかな?
僕はチキンステーキ定食にしたよ。

辺田

忙しいからこそご飯はしっかり食べないとね。







…ホントに忙しそうですね。

辺田先生…
色々なシチュエーションがあると思うんですけど、
緊急手術の適応は何を重要視して判断しているんですか?







辺田

そうだね…。
手術をするかどうかは外科医の診断能力によるところが大きいね。

辺田

今でこそCT、MRIなどの検査機器があるけど、
実は腹膜炎の手術適応にて最も重要なのは結局触診、
手の感覚が大きいんだ。







そうなんですか?







辺田

腹膜全体的に炎症が及ぶという所見を腹膜刺激症状、板状硬というんだ。

辺田

触診での板状硬、叩打痛、反跳痛などの色々な言葉があるように、
お腹の所見を触診で最終的には確認をして、
手術適応かどうか決めるのが外科医の仕事と言える。

辺田

外科の先生ならわかると思うんだけど、
板状硬のお腹を触った時の感覚…これはやばいなって感じるよ。









 

 カリッと焼いたチキンステーキの表面をフォークで軽くおさえながら、
辺田先生は少ししかめっ面をした。 








 

たしかに…。
先生は手術適応になるかどうか悩む時ってあるんですか?







辺田

もちろん!医者だって人間だからね!
手術をするまで、大丈夫かなと思う気持ちはあるけど、
複数の外科医で相談し、
放射線科医師にも読影を依頼して適応を決めるんだ。

辺田

もちろん、最終的には主治医と患者さんで
IC(インフォームドコンセント)をして決めるけど、
僕らは、強い信念をもって最良の治療方法として
手術をすすめるようにしている。







それでも悩む時はないんですか?







辺田

うん。
どうしても迷ったときは試験開腹という言葉もあるんだけど、
大事なことは最悪の事態を回避すること。

辺田

患者さんの状態をよくするのに何が一番重要か。
状況によっては時間が勝負の側面もあるからね。







『外科医の持つべきものは、
 獅子の心臓と鷹の目、そして女性の指』

って言いますからね…。

手術適応の判断、決断力…
まさしく獅子の心臓が必要ですね…。







辺田

うん、
どのような治療にも優れた点、劣る点があるからね。
手術のことだけじゃない。
僕たちは患者さんのこれからの人生を背負っている怖さもある。

辺田

もちろん、『必ず治る』という手術があるのなら、
迷いは少ないかもしれない。
だけど、すべての治療の結果は
データに基づいた確率でしか表すことができないからね。

辺田

 仮に、「再発の可能性が何%」という絶対的な数字を示せたとしても、
手術が体や生活に与える影響は人によって異なる。

辺田

だから、治療内容をよく理解してもらった上で、
患者さんが何を大切にしたいのかを考えることも大切だよ。







と言うと…?







辺田

うん。
例えば『身体的に大変でも完治を目指したい』と考える人なら、
客観的なデータに基づいて再発の可能性が一番低い手術を選択したいと考える。







普通…そうですよね?







辺田

だけど…
『将来、子どもを持てる可能性を維持したい』と考える患者さんなら、
再発の確率が少し上がるとしても、
そのための機能を温存する治療法が重要なこともある。







あ、確かに…







辺田

さらに、患者さんによっては
『治療は行わず、痛みを取る治療を行いたい』
などの選択肢を選ばれる場合もある。







なるほど…








患者さんそれぞれの環境や価値観によって、
それぞれ異なるから、
患者さんにしかわからないものです。








あ、教授…!







私は、冷やし中華にしましたよ。
食事の選択はライフタイムバランスに影響を与えます。
今日も暑いですからね。







確かに…。







辺田

とても難しい選択だけど、
患者さんに十分に納得して手術を受けてもらうためには、
提示する手術の選択肢の優れた点、劣る点がどんなものなのか、

辺田

そして、患者さんが大切にしたいことは何なのかを
落ち着いて整理することはとても重要だよ。







大変な作業ですが、
ぜひ、患者さんのこれからの人生をよくできるよう、
ちゃんと話し合うことも医者の大事な要素です。







三者三様、十人十色、百人百態、ですか…。







辺田

その通り。
なんか今日は名言ばかりだね







『温故知新』が僕の最近のテーマですから!







お、桐野くんは教室のスローガンをよく知っていますね!
例えると、外科医の教室は海に浮かぶ船のようなものです。

漕ぎ手の君たちと一緒に船長の私がかじを取る。
これからも船を揺らさないように
力いっぱい漕いでくれたら嬉しいです。







はい!







あ、『医者の手』のことについて私からも一言。
人差し指は現在でも最良の器具という言葉があります。
たしかにロボット手術の発展は目覚ましいものがありますが、
基本となるのは開腹の手術がしっかりできること。

実際、外科医の手は手術器具よりも優秀です。
手の感覚というのはとても重要で、
内視鏡手術での触覚や、臓器を触った感覚なども非常に大事です。

 ギリシア、医学の祖とされるヒポクラテスも
手のことをこのように言っています。
『爪は指先よりも長くても短くてもいけない。
外科医は指先の運動、特に人差し指を親指に近づける練習をすること』と。

大事なことは昔から変わらないんですよ。
桐野くん、このことを忘れずに、今後とも勉強を続けてくださいね。







もちろんです!







辺田

モテるための、ことわざの勉強以外にもね!








あ…はい…。
もちろんです…












 

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