鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチ

Vol.88

ー 準備8割。なにごとも。 ー







 季節はもう春。ここ鹿児島大学病院の丘にも、
ときどきなまあたたかい風が吹いてくるようになってきたというのに、僕の心はまだ寒い…。
研究室へのいつもの階段を上るにも息が上がる始末だ…。。








はぁ〜…







どうした?あからさまに浮かないため息をついて…
いかにも『誰かに聞いてほしい』って感じだね。







あ、高留先生…いいんです…ほっといてください。







おおかた、合コン話の悩み。ってとこだろ?







え、あぁ…へへ…わかります?







やっぱりね…。まぁ聞いてみようか…。







最近、『ズーム飲み』ばかりで…実際の飲み会と比べて、
仲良くなれたり、面白い話を聞けることが少なくて…。
…なんというか…楽しくないんです。











 

これ幸いと、高留先生と話しながら、一緒に階段を登る。
けど相変わらず足取りは重くて…。
後ろから軽く階段を上る足音さえ心憎い。














 

よ!桐野くん! それは準備が足りないんだな!







東川先生!

……準備…ですか?







そう!例えば、外科医として、いまの桐野くんを見て、僕なら…
『いま、もしかして呼吸機能がよくないのかな?』と考えてみる。







あ〜…。

え!外科医は呼吸機能についてくわしいんですか?







もちろん!たとえば…
せき・たん・息切れの症状が続くCOPDや心不全の患者さんの場合、
術後肺炎や心不全のリスクが高くなるよね。

だから、術前にできるだけ精査して、
可能なら呼吸リハビリで改善したうえで手術を行う。
とか考えるよ。











 

 手術前のカンファレンスでは、腫瘍の場所や進展範囲によって、術式を組み立てるが、
その他にも、患者さんの全身状態や年齢、合併症を十分に考慮する必要がある。










 

麻酔科が術前検査で問題にするところもあるけど、
術後の合併症を起こさないように、
まずは主治医が患者さんの状況を把握する。
手術前からすでに準備は始まっているんだ







患者さんの全身状態を把握することも外科医の仕事。だと…







その通り。
トータルでいろんなリスクを考えなきゃいけない。

今は色々な研究が進んでいて
術前の様々な数値で術後の合併症や予後を推定することができるんだよ。







サルコペニア…加齢などで骨格筋・筋肉が減少した状態では、
術後呼吸器合併症との相関関係がある。とかね。







術前の血液検査の好中球、
リンパ球数の比率や栄養状態を表すアルブミン値…、

炎症状態を示す
フィブリノーゲン(ヒトの血液中に含まれる血液が凝固するときに必要な因子)
の数値で予後を予測する。など、ゲカイチでも多くの報告をしているよ。











 

 高齢化社会と呼ばれて長い現代だが、
若者に比べ高齢者は合併症が多く、術式選択に苦労することは多い。

 肺機能だけでなく、心機能や糖尿病、血管系の病気の有無や、
脳梗塞既往によるADL(日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作)の低下など…
その他疾患の既往・合併…、生活スタイルを含めて患者の状況をくまなく把握する必要があるからだ。

 手術そのものだけではなく、術後の状況をこと細やかに報告して、原因を探り、そして共有する。
これもゲカイチの大事な役割というわけだ。









 

心機能把握に、心筋シンチや冠動脈造影を行ったり、
場合によっては冠動脈ステント留置後に癌の手術を行うこともある。
…これは大変な作業だよ。







呼吸器だけじゃない、他の臓器も同じだよ。
腎機能不良の患者さんには透析を考慮したり、
血糖コントロール不良の患者さんにはインスリンを導入してから…とか。

そして、他の悪性腫瘍併存の場合、
どちらを優先するか、また同時手術をするか。
などの検討も入ってくるからね。







たしかに…







言葉にすれば、当たり前と思うかもしれないけど、
手術の成績は、単に術者の技術だけでなく、
手術をするまでの患者さんの状況にかなり左右されるんだ。







今は、
NCD risk calculator】
(ナショナルクリニックデータベースの登録データに構築されたリスクモデルを用いて、手術を受ける患者のリスクを計算するフィードバック機能)
を利用して、術前に合併症発生率の予測や、死亡率のパーセントが分かるようになっているんだ。







それはすごいですね…







すごいよ!
個々の症例の術前リスクを入力すると、全国的に登録された症例データから、
アウトカム(死亡・合併症などの予測発生率)が算出されて、
即時に個々の診療科にフィードバックされる。

それは、術前カンファレンスやインフォームドコンセントなどで活用できるんだよ。







そんなにわかるんですね…。







そうだよ。
今は治療成績向上のために、
積極的な栄養学的治療の介入、
そして術前リハビリテーションの導入が求められていますからね。








 

半田先生…








特に、大学病院に紹介で来られる患者さんは、
いろんな合併症を抱えている方が多いから、
手術の適応・内容について、いつもみんなで話し合って決めているんです。








教授…!

腫瘍を取り除くだけが僕らの仕事じゃないというわけですね…








その通り。個々の患者さんの既往歴や生活歴、服用している薬剤の把握…。
それだけじゃない。 家族歴の把握なども、手術・術後の説明、
そして帰宅後のフォローアップに影響する重要な要素だよ。

データだけに頼らず、そういう様々なことがらを踏まえ、
手術の適応を判断するのが外科医の腕。
といえるね。








まさしく、その通りです!
そして、そういったヒアリングは、主に若手医師が担当することが多い。

『患者さんのところに足しげく通って信頼を勝ち取る』。
良好な人間関係から得られる情報はとても多い。
病棟でベッドサイドに足を運ぶことは非常に重要ですよ。








『なにごとも準備が命』。というわけですか…
外科医への道には、まだまだ学ぶべきことがいっぱいあります…。







そうだね、さっきの話に例えれば…
メンバーといまいち仲良くなれないのは『ZOOM飲み』が原因じゃない。

参加メンバーの情報を聞いておく。
とかの『準備が足りない』ということが言えるんじゃないかな?
外科医として(笑)。







あ…なるほど…。







ということで、
僕もマラソンをして、呼吸機能を鍛えています。
体力づくりも外科医の大事な準備ですからね。







あ、そうですね!
僕も、体を鍛えてシェイプアップして、
もっと仲良くなれるようにがんばります!







んー…桐野くん…やっぱりそうきたか…。

不安だなぁ…







まぁまぁ…もっと人と仲良くなりたい。
そんな気持ちを、いつも持っている桐野くんなら大丈夫ですよ。




 

  








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