鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチ

Vol.7

ー やむにやまれず ー




 夜の繁華街で、田中先生とばったり出くわした。
そんなに大きい街でもないから、知り合いに会うことはめずらしくもないのだが、妙に新鮮な気がする。
 田中先生は、すでに赤ら顔だったが、お仲間とはすでに別れたと見え、一人歩いていたのだった。
 立ち飲み屋でも寄ろうかと誘ってきたのは、田中先生だ。
ポスターのお礼するよ、とウインクを飛ばしてきた。

 普段は黙々と仕事をこなすイメージの田中先生だが、これは、けっこう仕上がっていらっしゃる。
おもしろい。僕は魔が差して、一杯おつきあいすることにした。


 

桐野 ポスターのこと覚えてるなんて、田中先生、実は義理堅いんですね。
 
そうなんだよ。実はというより、実に義理堅いんだけどな。
 
桐野 一人飲みですか。
 
そうだよ。
 
桐野 いつも一人ですか。
 
……まあ、たまにな。
 
桐野 なにかいいことあったんですか?


 

 


僕らは居酒屋のカウンターで隣り合わせに座り、焼酎のお湯割りを飲みながら話題を続けた。
 田中先生は、癌幹細胞の研究をしている。
ここのところずっと論文を書いていたのだそうで、
この日は、研究成果を海外誌に投稿し終え一人で打ち上げをしていた。
そこに僕が出くわしたのだった。

 なんでも以前別のテーマで書いてリジェクトされた経験がある(と先生は表現した)そうで、
そのときのショックからの反動で一層燃えている、という話を焼酎グラスを見つめながら話してくれた。

早期発見や転移の予防につながる可能性や、英語の論文を書くときのちょっとした気づきなど、
かなり具体的で熱い話は、まだ学生の僕にとっても興奮する内容だった。



 

桐野 すごいですね。
 
すごいってのとは違うんだよなあ。
 
患者さんを診る。手術で治る可能性がある。
自分には技術がある。

さあ、どうする?
 
桐野 やります。持てる技術を提供します。
 
やるよなあ。でな、手段に迷うとするじゃないか。
誰かが多くを知ってる。

どうする?
 
桐野 聞きます。
 
聞くよなあ。海外に事例があるらしい。調べるよな。
で、可能性豊かな発見をしました。

人に知らせたいと思うだろ?
 
桐野 思います。
 
一つずつ考えて行くと、あたりまえのこと。なんだよ。

 












…… そういえば ……。



 





 
当たり前のことを毎日毎日、当たり前にやり続けるだけですよ。

でもそれが一番難しいんです。



 

“あたりまえ”。
過去に教授の口からも聞いた言葉だった。
あれは確か、医局の歓迎会に参加した時…。

半田先生が「おれは仕事だけじゃなくて趣味にも手を抜かない!」

という話になったときだったか。

そういえば、教授は講義でも「当たり前」という言葉がよく使う気がする。
 
どうやら(たとえアイドルの応援でも)何事にも当たり前のようにベストを尽くす。
という考え方は、ゲカイチの多くの先生に共通しているようだった。




 

桐野 そうは言っても大変だと思うんですよ。

みなさん、そんな感じなんですか?
 
森熊先生や半田先生も海外誌に投稿してるよ。

診療やその他の業務と並行してそれぞれのテーマを追求してる。
 
桐野 あの先生方は忙しそうじゃないですか。
いつ研究してるんですかね。
 
こっちが知りたいよ。
桐野くん、それとなく聞いてみてよ。

とはいっても、まあ、いつも考えてるんだろうなあ。
誤解を恐れずに表現するなら「やむにやまれず」ってやつかな。



 


聞けば、研究内容の独自性についてしばしば熱い議論になったり、
論文を書きあげるための助け合いもあるらしい。 
地方ということにこだわらず、
鹿児島から最新研究成果をどんどん発信していこうという勢いがあるというのは、
職場環境としてはなんだか心強くワクワクする。


田中先生がふいに「お勘定!」と声を上げた。


 

ふぅ〜っ。いい話ができた。桐野くん、ここはおごらせていただきますよ。
 
桐野 ありがとうございます!
 
じゃ、勢いがついたところで、次の店は、うーん…。
廻らないお寿司屋さんがいいかなあ。

もちろん、桐野くん持ちで。
 
桐野 え!? かんべんしてくださいよ。
先生、さっきの「義理堅い」評価、取り消しでお願いします。
 
冗談冗談。それでは僕の研究成果を発表させてもらうとしますか。

あまり高いところじゃないけど、味は保証するよ。






そして僕らは、『やむにやまれず』夜の街の奥へと向かった。






 

 

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