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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
  •  ゲカイチヘッダ
    男と女。と仲間。


     
     

     梅雨だというのに雨は降らずに、まるで夏のような日が続いている。

    しかし、僕の心には昨日の夜から雨が降っている。
    まぁ…それはさておき、暑がりの僕にとって、夏場の水分補給は特に重要な行為。
    冷たいジュースを求めて向った自販機の前で、田中先生と会った。

    田中先生には久しぶりに会うのだが、
    僕に気付いた先生はなんとなく笑いを堪えているようにも見える。




     

    桐野

    お久しぶりです!

     
    桐野 お、桐野くん。何飲む?奢るよ
     
    桐野 え?いいんですか?
     
    桐野 遠慮しなくていいよ。

    …いやあ、それにしても昨日のビンタは見事だったね


     
    桐野 え?嘘、、、
     


     


     ?…どうやらバツの悪いところを見られてしまっていたようだ。

    実は昨夜、(寝ぼけていたわけではなかったのだが)
    まさに「目が覚めるような」と言いたくなるほど強烈なビンタをくらってしまった。

    しかも道端で。

     お相手は、最近仲良くしていた女の子なのだが、 どうやら僕は、つまり、フラれてしまったのだ。
    そして、その後数分間、その場から動けなかった。


    まさかそれが、よりによって病院関係者に見られていたなんて。




    とことんツイてない。








     

    桐野 よっぽど怒らせてしまったようだね、
    あんなビンタ。そうそう拝めるものじゃないよ、

    いやあ…感動した(笑)
     
    桐野 うわあ、やめてくださいよ、他人事だと思って。

    これでも結構傷ついているんですから
       
     






    「おや、何か楽しそうな話をしてますね」
    と言いながら同じく喉の潤いを求めてやって来た半田先生も合流して、余計にバツが悪い。

    今日は僕にとって仏滅。
    なんとかお願いして、場所を自販機の前から医務室の隅に替えてもらった。
     





     
    桐野

    なるほど、だいたいの流れは掴めました。
    桐野くん、紳士たるもの女性への接し方に対ついては気を付けなければなりません。

     
    桐野

    プライベートではもちろんですが、
    それは医療の場においても同じことです。
    医学部に入学する3~4割が女性です。
    これから医療はますます女性の活躍する場所になっていきますからね。




     
    桐野

    確かに。

    眼科や麻酔科、産婦人科はすでに女性医師が多く活躍してますね。


     



     

     ここだけの話、こう見えて田中先生はなかなかのモテ男なのだ。
    実家がジュエリーショップを営んでいることが関係しているのかもしれない。

    はっきり言って女性に慣れている。
    ベビーフェイスとユーモアのある知性を武器に人気を集める存在。
    察するにおそらく、眼科にも麻酔科にも産婦人科にも、
    仲の良い女性がいるのだろう。





     
    桐野

    どこの会社でも、もはやワークシェアリングは当たり前なのですが、
    外科においては遅れていて、これから、といえるでしょう。

     
    桐野

    北欧なんかは特に女性医師が多く、
    それに対しての配慮も行き届いていると言われていますからね。



     
    桐野

    北欧や東欧の女性医師の割合は、
    国によっては7割のところもあるらしいですね。
    前に、交換留学で来ていたスウェーデンのキャサリンから
    聞いたことがあります。

     
    桐野

    …いやぁキャサリンも素敵な女性でした


     
     





    半田先生の話に対して、的確に、自分の恋愛経験の中からモノを言う田中先生は
    なんだかイキイキしているように感じる。


     

     


     
    桐野 恥ずかしながら、女性医師の割合が
    OECD加盟国(経済協力開発機構【本部はパリに設立】)33か国中、
    最も少ない国が日本なのです。
     
    桐野 しかし、何度も言う通り学会でも
    「女性セッション」というのが作られたり、
    女性医師をどうするか?を盛んに議論しているところもあります。
    これからが、本当に楽しみです。
     
    桐野 うんうん、本当に楽しみですね。







    満面の笑みで頷く田中先生は子供のように無邪気だ。

    …まぁ、半田先生の言う「楽しみ」とは、なんだか違いを感じるが。




     
    桐野 長時間手術を体力がない私にはできない!
    と敬遠する女性も多いといいますが、そんなに体力はいらないんだ!
    ということを伝えていかなければなりません
     
    桐野 だからといって、特別視しないことも、
    やはり大切なんですよね、半田先生。
     
    桐野 そう、その通り。
    これから日本の医療は女性の時代になると言っても過言でありませんが、
    特別視はダメです。
     
    桐野 あくまでそこは我々と平等であり、仲間であり、ライバルなのです、

    ハイ。




     
    桐野 …わかったかい? 桐野くん?





    はあ、、、結局、
    これからの日本の医療社会が女性医師の活躍の場になるということはわかったものの。

    昨日、僕がビンタされたことや、ひどいフラれ方をされたことの傷というか、
    悲しみというか、切なさについては何のフォローもしてもらえず、 もやもやはそのままだ。




     
    桐野

    いいかい、桐野くん。女性のことは、女性に聞くのが一番だ。
    丁度良かった。これから、新人の戸口先生を紹介するから、
    それについて色々と聞いてみてはどうですか?

     
    桐野

    喜例先生にあこがれて入った期待の新人だよ!
    美人だし、彼女の方が歳も近いからね。



     
    桐野

    い、いや。大丈夫です。それは大丈夫です。
    何とかなります。

    というか、一人でなんとかしますから!
    はい。

     
    桐野

    では、僕が“男と女について”

    色々と戸口先生に教えて差し上げようかな。



     
    桐野

    田中先生。

    あまり調子に乗り過ぎると、
    君も桐野くんのようになりますよ

     
    桐野

    うわっ、それだけは勘弁だ。

    桐野くんの二の舞はちょっと、、、




     

    と言って、二人は笑いながら医局に向った。
    一人残された僕は、何とも言えない虚しい空気の中で、 思いを巡らせていた。
    女心について、自分の不甲斐無さについて。

    そして、もちろん。
    女性の時代を迎えるこれからの日本の医療について。



    あぁ、次の恋は、うまくいくといいなあ。
    なんて、ガラにもなくネット小説のように、ひとりごちながら。




     

    ゲカイチフッタ

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