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    情熱のイチョウの木




     桜の花の春よりも、
    イチョウの葉が風に舞う、これからの季節の方が僕は好きだ。

     研究所の建物の前でイチョウの木を見上げているときに、
    森熊先生に声を掛けられた時のことを思い出す。


     

     

    森熊 君もイチョウの木が好きなの?
     
    桐野 はい、鹿児島の灰色の空に
    この黄色が妙に似合う気がするんですよ
     
    実は僕もこの公園のこのイチョウの木が好きでね。
    毎年この木を眺めては
    季節の移ろいを実感しているんだ

     




     森熊先生が患者さんや他の先生から好かれる理由は、
    この優しい目と、穏やかな話し方にあるのだろう。

    同性なのに少しうっとりしてしまった自分に戸惑う。


     

    ところで、話は変わるんだが、
    日本で活発に腹腔鏡手術で活躍されている先生の
    講演会に行ってみたくない?

     




    思いも寄らない誘いに“うっとり”も吹き飛ぶ。




     

    桐野 はい!

    ぜひ行かせて下さい!

     


    即答した。





     講演会の当日、僕は指定された時間より30分早く着いたのだが、
    森熊先生はすでにロビーにいて、何人かの先生方と談笑をしていた。

     僕を見つけるなり輪の中に呼んでくれて
    「未来のエース」と紹介してくれたのは嬉しかったが、
    スタートラインより数メートル後方にいる身としては当然、恥ずかしくもある。
     今日の講演で、丁寧に学び、その“未来”で活かさなければと、背筋を伸ばした。

     講演会が始まると二人の先生が順に壇上に立ち、
    腹腔鏡手術の“現場”について事細かな説明と報告。

     普段は使わないデバイスに工夫を凝らして、実際の手術で“使えるモノに変える”ことや、
    アジア諸国や欧米に比べて日本では施術方法としての認知度が遅れていること、
    過去のチャレンジや、失敗について…。
     興味深い赤裸々なテーマの連続で、そのインパクトの強さに頭がくらくらした。


     質疑応答の際には講演参加者の先生方から熱を帯びた様々な質問が飛び交い、
    集中して一つひとつの質問に丁寧に答える講演者先生の姿も印象深かった。

     特に、動画や画像を用いてその時の心理や思考プロセスまで説明しており、
    失敗すらも共有して、技術を伝える姿勢に感銘を受けた。

     日本における腹腔鏡手術はロボット手術など発展途上の部分もある。
    しかし、専門を越えて情報を共有し、技術を磨いていこうとする空気は確実に広がっている。

     留まることのない挑戦の繰り返しが未来に繋がっている。

    そんな医療現場の現実を垣間見れた気がして、正直、武者震いした。




     

    どうだった? 

    今日の講演は。行ってよかっただろう?
     
    桐野 そうですね、

    チャンスって、意外とたくさんあるんだなと思いました。
     
    というと?
     
    桐野 どの選択肢を進路に選んでも、
    そうそう悪くはない。

    そんな気がしました!
     
    前に比べると制度も随分と整っているし、
    人の技術も経験も、日々蓄積されている。
    それでも知るべきこと、やるべきことはまだまだ山積みだ。
    面白いと思うよ。

    必要なのは、探究心を忘れないことだね
     
    桐野 はい、今日はお誘いいただきありがとうございました。

    頑張ります!




     


     人が新しく発見・発明するときは、
    毎日、絶え間なくそのことについて考え、思い続けているらしい。

    そうやって直感が生まれ、アイデアは膨らんでいく。

     その“継続”を情熱と呼ぶのなら、
    僕なりのやり方をみつけるために、
    今やれることを一生懸命やることが大事なのかもしれない…。



     

    桐野くん、自分から掃除とは精が出るね
     
    桐野 あっ、いえいえ。



     

    そう、まずは、やれることから。


    半田先生に頼まれた、研究所の前に積もったイチョウの落ち葉を
    さっさと掃除しなきゃ。



     

    ゲカイチフッタ

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