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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
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    ゲカイチの伝統






     これまでの忙しさがウソのように、ぽっかりと時間が空いた午後。


     半田先生に頼まれて、研究室に届いた新しい棚を今年新入局された中山先生と一緒に組み立てていた。




    桐野

    あれっ?おかしいな。






    桐野

    どうしたの?桐野くん。






    桐野

    もうすぐ完成かと思ったら、部品が結構余っているんですよ……






    桐野

    えっ!?そんなことないでしょう。説明書ちゃんと見た?






    桐野

    はっ、はい……。
    説明書通りに組み立ててるつもりだったんですけど……。






    桐野

    ……どれどれ。あっ、本当だ。
    おかしいなぁ……






     途中までは順調だったのに、どうも説明書通りにいかない。
    二人で頭を抱えているところに、中山先生と同期でゲカイチのヨカニセ(鹿児島弁でイケメン)
    と名高い福山先生(Vol.55参照)が声をかけてきた。







    桐野

    どうしたの、二人して?





    桐野

    棚を組み立てているんですけど、説明書通りにいかなくて……






    桐野

    そうなんだよ(泣)。
    そういえば、福山くんってこういうの得意だったよね?






    桐野

    得意ってほどじゃないけど……。割と好きな方だから、手伝うよ。







    桐野

    ありがとうございます!







     3人で組み立て始めたその時、強面だけど面倒見のいい柳松先生がちょうど後ろを通りかかった。





    桐野

    3人揃って、何してるの?





    桐野桐野

    おつかれさまです。






    桐野

    この説明書通りに棚を組み立てていたはずなんですけど、
    なかなかうまくいかなくて……






    桐野

    そうなんだ。でも、説明書通りに組み立てることは当たり前!
    その説明書をしっかりと理解して、
    完成形を想像しながら組み立てると上手くいくんだけどね…







    桐野

    最終形を……ですか?







    桐野

    そうだよ。完成形をイメージしながら、
    どの部品がどのような役割を持っているかを考えながら組み立てる!
    ゲカイチでいつもやってることと同じだよ。







    桐野

    ゲカイチで?







    桐野

    あっ!『予想展開図』のことですか?







    桐野

    正解!







    桐野

    本当だ!『予想展開図』と一緒ですね!







    桐野

    ………すみません。『予想展開図』ってなんですか?







    桐野

    桐野くんはまだやったことがなかったっけ?







    桐野

    はい……。







    桐野

    術前検討のカンファレンスの時に、腫瘍がその臓器のどのあたりに存在するか、
    病変の大きさ、形、周囲との関係、血管の走行、リンパ節転移や臓器転移の有無など、
    手術前におこなったあらゆる検査の結果を駆使して展開図を描くんだよ。







    桐野

    そして、その絵をもとに手術を組み立てたり、
    逆に手術を念頭に置いて展開図を描いたりするんだ。







    桐野

    ゲカイチでは必ず予想展開図を描くんだ。
    若い先生たちの大切な仕事として、数十年続いているゲカイチの伝統と言っても良いかもね。







    桐野

    柳松先生もやられてたんですか?







    桐野

    もちろん!血管の走行や他臓器浸潤、リンパ節転移の状況を把握して、
    どの程度、どこまで切除するかの切除範囲を考え、
    実際の手術をイメージ・把握できるまでは事細かにCTを見返して
    予想展開図を何度も何度も描くことで頭の中でイメージできるようになる。


    桐野

    手術のイメージトレーニングのために、予想展開図を描くことは必要だと思うよ。







    桐野

    そうですね!







    桐野

    さらに、その予想展開図をベースに、
    そこから推測される進行具合などを考慮した手術後や
    今後の補助化学療法などの治療方針を考えたり、他の先生方の意見を聞いていたり、
    全身の合併症など手術に向けての問題点や留意点をすべて洗い出す。


    桐野

    先々の治療方針まで何度もイメージして手術に望むことが大切だからね。







    桐野

    はい!







    桐野

    最近は3D-CTなどが進歩しているから、
    術前のイメージとして造影剤のタイミングなどを駆使してヒュージョンできるので、
    CTやMRとともに投影することで、いずれの情報も
    ひとつの画像にシミュレーションできるようになっている。


    桐野

    だから、これまでのように頭の中で構築していた作業が省略されているし、
    手術の前のシミュレーションがより簡単で便利に、
    そして正確にできるようになってはいるね。


    桐野

    でも、手術の経験が浅い頃や研修医の間は、
    何度も何度も繰り返し画像を見ることが大事だと思うな。







    桐野

    なるほど!







    桐野

    手術の前に画像を見て、手術所見を見て、手術後の摘出標本を生はもちろん
    ホルマリン固定後にも観察する。
    そして、割面を見て、最終的に顕微鏡で腫瘍の性状を事細かに見抜く!


    桐野

    その繰り返しが画像を見抜く力を培い、
    さらには臨床力・手術の力が培われてくると思っているよ。
    だから、みんなもしっかり頑張ってね!







    桐野

    道具に頼るだけじゃなく、自分の目で何度も見ることで自分の中に取り込むことが必要なんですね。







    桐野

    そう!棚の組み立ても同じかもね!
    外科医の仕事にも通じる部分もあるからね。
    棚の組み立ても外科医の仕事も、何度も何度も確認しイメージすることが必要だと僕は思ってるよ。







    桐野

    中山先生、福山先生!
    もう一度、説明書をじっくり読み込んだ後、完成形をイメージしながら組み立ててみましょう!







    桐野桐野

    そうだね。がんばろう!










    改めてイメージする重要性を感じながら、棚の組み立てを始めようとしたその時、半田先生がやってきた。






    桐野

    どう?組み立ては順調?





    桐野

    なかなかうまくいかなくて……。





    桐野

    でも、もう一度しっかりと説明書を見直して組み立て始めたところですので、
    もう少し待ってください!







    桐野

    いいよ、いいよ(笑)





    桐野

    ありがとうございます!





    桐野

    ……えっと、ところで……部品って余らなかった?
    もう1台棚が来る予定だから余るはずなんだけど……?







    桐野桐野

    えええええっ!!!!







     説明書を理解する前に、まずはきちんと確認……。
    僕の予想展開図はまだまだ未完成だ…。







    ゲカイチフッタ

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