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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
  •  ゲカイチヘッダ
    夏の定番。



    「夜の病院が、好きだ。」
    そう言うと、大半の人は首をかしげる。


    それは、夜の病院が怪談話の定番シチュエーションだからなのかもしれない。


    でも、夜の病院が好きだ。
    何故好きなのかを考えると、夜の病院独特の静寂の時間が好きなんだと思う。
    というわけで、半田先生と当直の今夜は、いつにも増して落ち着いている。


    眠気覚ましのコーヒーを飲みながら研究資料を作成していると、
    半田先生が休憩から戻ってきた。




     
    桐野

    今夜は、特に静かだね。







    桐野

    午前中にオペを受けられた患者さんも容態が安定していますし…
    今夜も何事もなく朝を迎えられればいいんですけれど。







    桐野

    そうだね。でも、気を抜いたらいけないよ。







    桐野

    はい!







    桐野

    それにしても…
    私が研修医の頃は急変する患者さんがとても多く、
    たくさんの研修医が大学に寝泊まりしていたもんだよ。







    桐野

    そうなんですか!







    桐野

    急変に対する処置が必要なので、
    人手が多いに越したことはないから、
    研修医も手術日は泊まるのが当たり前だったよ。







    桐野

    大変だったんですね。







    桐野

    今考えると、体力的には大変だったけど、
    とても勉強になったね。







    桐野

    勉強になったんですか?







    桐野

    処置の技法はもちろん、
    何が起こっているのか自分で考え臨機応変に対応する力や
    どういう検査を組み立てればいいか学んだり、



    桐野

    特殊薬などの薬剤を勉強したり、ICUの先生に相談に行ったり…
    当直じゃなきゃできないいろんなことを学ぶことができたよ。







    桐野

    じゃあ、今のように比較的落ち着いている状況なんて
    あまりなかったんですね?







    桐野

    そうだね。基本的にはね。







    桐野

    半田先生が研修医の頃って、
    いつも何人ぐらいの先生がいらっしゃったんですか?







    桐野

    当直担当の先生は1人だったけど、
    病院に寝泊まりしていた先生は
    5・6人ぐらいいたんじゃないかな。
    手術日は泊まるっていうのが鉄則だったしね。







    桐野

    そんなにたくさんですか!?







    桐野

    当直室にある4つのベッドはいつも取り合いだったよ。
    処置台や外来のベッドで休むなんてこともあったね。
    まぁ、それだけ若手医師がいたってことだし、



    桐野

    今のようにシステム化されていなかったから、
    処置や薬剤処方や検査の入力など、
    猫の手が借りたいくらいやることがたくさんあった!



    桐野

    でも、なんだか合宿みたいで楽しかったよね。
    先輩方からいろんな話を聞いて、とても勉強になったし!







    桐野

    それはそれで、うらやましいですね。







    桐野

    まぁ、何よりも昔と比べて急変が少なくなったことは
    患者さんにとっても私たちにとっても
    喜ばしいことだけどね。







    桐野

    半田先生が研修医の頃と比べて、
    一番何が変わったんですか?







    桐野

    一番って言われると難しいけど、
    安定した術後管理ができるのは



    桐野

    『手術の技術力とデバイスの進歩によって、
    手術がより安全に行われるようになった』
    ことが大きいんじゃないかな?







    桐野

    手術の技術とデバイスの進歩ですか。







    桐野

    そう。
    画像の進歩により術前の画像が飛躍的に見やすくなったため、開腹してみないとわからない!
    なんてことが格段に減ったよね。



    桐野

    それに、手術適応の基準がかなり具象化しているから、
    術後の合併症が軽減するなど安全性が向上している。



    桐野

    薬剤なんかも日々進歩しているし、術後管理という面では
    私が研修医の頃では考えられないくらい楽になっているよ!







    桐野

    なるほど…。







    桐野

    桐野くん!
    君たちのような若い世代は本当に恵まれているよね。







    桐野

    そうですね。







    桐野

    それに比べて、僕たちの時代は…



     







         (カタン!!)







    廊下からモノが落ちるような物音がかすかに聞こえた。
    突然の物音にビックリし、手に持っていたコーヒーカップを落としそうになった。







      

    桐野

    !!!!!


    桐野

    半田先生…!何か聞こえませんでしたか?







     
    桐野

    何かモノが落ちるような音が聞こえたね。
    桐野くん、ちょっと見てきて!







    桐野

    えっ!一人でですか!?







    桐野

    …ぇ、ぁ、ぅん……。
    私は今ちょっと手が離せないから…




     

     

    さっきまで、一緒に話をしていたのに…






    …急にパソコンで研究資料を作り出した半田先生を横目に
    ドアを開けようとノブに手をかけた瞬間…





    いきなりドアが力強く開いた!












     
    桐野

    わぁあ!



     

       
    突然の出来事に腰が抜けるかと思うくらい驚き、大きな声を上げてしまった。










     
    桐野

    桐野くん?


    桐野

    そんな大きな声を上げてどうしたんですか?







     
    桐野

    教授…!…こそ、どうされたんですか?
    こんな時間に!?







    桐野

    明日の学会に必要な資料を忘れてしまったので、
    取りに来たついでに挨拶しようと思って来ただけですよ。







     
    桐野

    そうなんですか…。
    いや、物音がしたと思ったらドアがいきなり開いたので、
    ビックリして大きな声が出てしまいました。
    …すみません。







     
    桐野

    医師は常に冷静でなければいけませんね。
    あらゆることに動じない強い気持ちが必要です。



    桐野

    …あと、変化する状況に対応できる姿勢かな。








     
    桐野

    そうだよ!桐野くん!








     
    桐野

    ………。







     
    桐野

    まぁ…夜の病院には…怖い噂もありますからね。







    桐野

    そうなんですか?







    桐野

    私たちがいるこの部屋もよく出るって言われてますしね。







    桐野

    そう……。














    桐野

    半田先生が今座っていらっしゃる席とかに!







     
    桐野

    ひぁッーーーー!!!!







     
    桐野

    ははは!半田先生、冗談ですよ(笑)。

    半田先生も、あらゆることに動じない強い気持ちが
    必要かもしれませんね!








    桐野

    …今のはサービス。演出ですよ…。








    桐野

    ………
    『あらゆる状況に対応』しないと。ですからね。










     

    手術の技術やデバイスなどの進歩が患者さんはもちろん、僕たち医師を支えている。
    僕が好きな夜の病院独特の静寂は、 医療の進歩によって生み出されていたんだ。


     でも、半田先生がおっしゃっていた合宿のような夜の病院も、
    身体的には大変なのかもしれないけれど、きっと楽しかったのかもしれない。
    そう考えると、ちょっと残念な気もしてくるな。



    いずにしろ、病院をとりまく環境は常に進化している。


    大切なのは強い気持ちと変化に対応できる姿勢。か…。





     

    ゲカイチフッタ

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