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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
  •  ゲカイチヘッダ
    これが、僕の生きる道!


     
     

    「うー、さむっ。」

     イチョウの木々が黄金色に色づき始めた公園のベンチに座り、
    医局近くの売店で買ったホットコーヒーを飲む。
    違いのわかる大人には、まだまだほど遠いかもしれないが、
    ほんの一瞬だけでもホッとできるこの時間が好きだ。



    それにしても…ホッと一息つくと脳裏によぎってしまうのは、
    先日の野球大会でやらかしてしまった『三球三振の悪夢』。
    なんだか落胆したような喜例先生の顔がいまだ瞼に焼き付いている…。



    このどんよりとした気持ちを振り払おうと目の前の雑誌へ目を移す。
    雑誌の表紙には、ノーベル物理学賞を授与された
    研究者三氏の柔和な表情が飛び込んできた。



    20世紀中の実現は不可能とまで言われていた青色発光ダイオード(LED)。
    その開発・量産化に成功した3氏の功績に対して、


    『彼らの発明は革命的なものである。
    白熱電球は20世紀を灯してきたが、21世紀はLEDランプによって灯されていくだろう』


    という称賛のメッセージが寄せられたと、ノーベル賞のホームページには書かれていた。







    ああ…『三球三振』。
    僕は果たして人の役に立てるのか…
    いつか認められるようになるのか…


     








     
    桐野

    わっ!










     


    背後から不意に声をかけられたため、
    飲もうと口にふくんだホットコーヒーを少しだけ吹き出してしまった。


     




      

    桐野 ワーッ!!!





     
    桐野 あっはっはっはっ(笑)。ゴメン、ゴメン。


     
    桐野 桐野くんがあまりにも真剣な顔をしていたもんだから、
    ちょっと驚かせてやろうと思っちゃった。


     
    桐野 予想以上にびっくりすると、面白いね。





     
     

    大きな声で快活に大笑いする森熊先生の無邪気な笑顔につられて
    さっきまでのどんよりした気持ちがどこかに消えてしまった。









     
    桐野

    森熊先生、からかわないでくださいよ(笑)。





     
    桐野 いやぁ、ゴメン、ゴメン。
    ところで、何をそんなに真剣に読んでたの?




     
    桐野

    『世界で認められる』って、すごいなぁと思いまして。





     
    桐野 あ~、青色LEDか!そうだね。
    世界の電力消費の4分の1が照明に使われていると言われる現代で、



     
    桐野 エネルギー効率も良く、
    従来の照明と比べて寿命が長い青色LEDは、
    人類にとっての大きな課題『省エネ』や
    『資源保護』につながる大きな一歩だよね。




     
    桐野

    そういえば、
    ブルーレイディスクも青色LEDを使ってるんでしたっけ?





     
    桐野 そうそう。
    ノーベル物理学賞を受賞する研究と言ったら
    まったく違う世界のように思ってしまうけれど、
    暮らしと密接に関わっている研究だね!




     
    桐野

    たしかに青色LEDのおかげで、
    いろいろな意味で世の中が明るく便利になりましたね。





     
    桐野 まぁ…、
    人のために役立つ仕事という意味では、
    ゲカイチも同じだぞ!


     
    桐野 外科医というのは…
    人の命を救うことができるオペ技術や知識はもちろん、
    地域医療に携わることができるなど、
    より密接に誰かのために役に立てる。


     
    桐野 これはやりがいのある仕事だ!
    って僕は毎日誇りを持って患者さんに向き合っているよ!




     
    桐野

    なるほど。





     
    桐野 それに、ゲカイチは
    外科の新たな可能性として期待されている
    腹腔鏡(内視鏡外科)にも、積極的に取り組んでいるからね!



     
    桐野 おっ!噂をしていたら、
    腹腔鏡の新たなアプローチに取り組んでいる
    中鏡先生だ!


     
    桐野 ちょっと待っててね。




     
       


    そう言うと、森熊先生は遠くを歩く長身でダンディーな中鏡先生に駆け寄り、
    二言三言話した後、一緒にこっちへ向かってきた。








     

     
    桐野 中鏡先生、こちらがゲカイチのホープ桐野くん。
    腹腔鏡に興味あるらしいですよ。





     
    桐野

    あっ、君が噂の桐野くん!





     
    桐野

    う・う・うわさ、ですか?





     
    桐野

    うん、三球三振の男!ってね。





     
    桐野

    えっ!もうそんな噂が…。





     
    桐野

    うそうそ(笑)。なかなか勉強熱心。って評判だよ。(笑)



     
    桐野

    腹腔鏡に興味あるの?
    そうだね…まだまだ発展段階ではあるんだけれど、
    傷の残らない方法で腫瘍を取り出すことに取り組んでいるよ!





     
    桐野

    傷痕の残らない方法ですか!








     
    桐野

    そう、中鏡先生はこの取り組みを英文論文化して、
    アジアの国際学会で韓国や台湾に行ったり、

     
    桐野

    ついこの間は、ヨーロッパの内視鏡外科学会に招待講演によばれたり。
    まさしく、世界の中鏡!なんだよ!







     
    桐野

    照れるね…う〜ん。たとえば甲状腺手術。
    従来なら首から切開して甲状腺を取り出す。
    その場合、洋服を着てもどうしても傷痕が見えてしまう…。



     
    桐野

    たしかに病気を治すことが最も重要なんだけれど、
    手術後に大きな傷痕が残ってしまうのは、
    手術後の患者さんにとって耐えられないことだよね。



     
    桐野

    そこで…首から切開するアプローチではなく、
    内視鏡を使えば、
    あまり目立たない鎖骨の下や脇の下の傷痕で済むことができる。



     
    桐野

    さらなる段階として取り組んでいるのが…
    口腔内からのアプローチ!
    口腔内からアプローチすることで、
    全く傷を残さずに甲状腺を取り出すことができるかもしれないんだ。







     
    桐野

    口腔内から!







     
    桐野

    そう!これは内視鏡を口や肛門などの自然孔から挿入し、
    管腔壁を経て体腔内に到達させて
    体表面を切開することなく診断・処置を行う手技である
    『NOTES』に似た画期的な方法なんだ!







     
    桐野

    それが実現できたら、すごいことですね!







     
    桐野

    まだまだ発展段階だから、
    これからの新しい外科領域になるけれど…
    患者さんのためという強い想いを持って取り組んでいるよ!









     
    桐野

    なるほど。なんだか元気出てきました!








     
    桐野

    いやいや。
    こちらこそ、噂の桐野くんに会えて良かったよ(笑)。

     
    桐野

    また何かあったら、いつでも相談にのるから!

     



     


     

    そう言い残すとともに、中鏡先生は颯爽と去っていった。







     

    桐野

    ゲカイチでも、
    新しい取り組みがたくさんおこなわれているんですね。








     
    桐野

    医療の現場は、日々進歩している。
    その中をどんな想いを持って歩いていくか!
    その想いが、やがて自分の道になるのかもしれないね。








     
    桐野

    …自分の道








     
    桐野

    受賞された赤崎教授も、

     
    桐野

    “自分が本当に好きなことなのか、自分に問いかけて、それでもやりたいことをやってほしい。そうすればくじけずに続けることができる”

     
    桐野

    って、仰ってるね。
    桐野くんもゆっくりでいいから、
    医療という世界で自分の生きる道を進んで行ってほしいって思っている。

     
    桐野

    微力かもしれないけど、僕らは応援してるよ!








     
    桐野

    ありがとうございます!
    早く僕の道を見つけられるよう頑張ります。










     
     


    認められること。
    人のためになる、やりがいのある使命。
    その中で、僕はどんな道を進むのか…


    そして、いつか『三球三振』のリベンジを…。



    うん。
    この身体の震えは、絶対秋の肌寒さのせいだけじゃない。


     



     

    ゲカイチフッタ

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