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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
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    理想を現実に(前編)


     
     

    今日は町中の全てが輝いて見える。
    散ったはずの花はまた咲き乱れて、道行く全ての人が楽しそうに微笑み、
    太陽は僕だけを照らすスポットライトのようだ。

    …僕はいま、喜例先生に連れられて、最近オープンしたばかりのカフェに向かっている。
    もう、これはデートと言ってもいい。喜例先生の方から僕を誘ってくれたのだ。
    ああ…今この瞬間がずっと続けばいいのに…。
    と、浮かれている間に早々とカフェに着く。

    店内で「こっちこっち」と言いながら僕らを手招きしている女性が居る。
    …その顔には見覚えがあった。看護主任の千代田さんだ(Vol.8 参照)

    そういえば、【カフェで人を待たせている】と喜例先生は言っていた。
    つまり、ようするに、これはミーティング。
    僕の短い幸せの時間はあっという間に終わりを告げる。



     
     

    桐野

    こんにちは桐野くん。



     
    桐野

    おつかれさまです。千代田さん。



     
    桐野

    遅くなってしまって申し訳ありません。



     
    桐野

    いいのよ、忙しいのは知っているから。
    気にしないで。



     
     


     喜例先生と、千代田さんは、月に一度こうしてお茶を飲みながら世間話や仕事の話を共有して、
    ゲカイチ全体のチームワークの向上と“前向きな”ストレスの発散を満喫しているらしい。
    なぜ、この場に僕が連れて来られたのかは知らないが、二人ともとても楽しそうに見える。

     




      

    桐野 最近、女性医師限定の求人希望も増えてきたわね。


     
    桐野 患者さんの要望に沿う形で、
    そういうところもあるらしいですね。


     
    桐野 眼科とか、麻酔科、産婦人科とか、
    既に多くの女性医師が活躍している現場では
    女性特有の病気を抱えている患者さんも多いものね。




     

    「そうなんですー!!!」

    不意にカフェに響き渡る大きな声…。



     

    桐野 先生たちもここにいたんですねー!!!


     


    声の主は今年度からゲカイチに入局した福田先生。
    今年度入局した先生の中では一番エネルギッシュ。と半田先生のお墨つき。
    挨拶をしようと思ったけど…
    先生はそのまま息もつかせず僕の横に座ってしゃべり続けた。

     


     
    桐野 そういう先進的な科の意見は積極的に取り入れてほしんですよ!
    んー例えば、女性患者の悩み。
     
    桐野 女性同士だと簡単に解決出来る場合もたくさんあるし、
    あと、当直室や化粧室・ロッカーや休憩室等といった設備も女性医師の為の憩いの場として大事ですよねー!
     
    桐野 そういう細やかな心配りのある仕事環境が、
    男性医師、特に若手にとっても刺激になるはずなんです!



     
    桐野 そ、そうね…最近では、
    国家試験の合格者数も女性の割合が30%強。


     
    桐野

    入学者の女性比率が4割を超える医学部もあるみたいだし、
    時代が変わって来た。って感じがするわね。




     
    桐野 です!
    それに合わせて医療現場での環境や制度も、
    もっともっと進化する必要を感じます!




     
    桐野 え、ええ…。この間、女子医学生に話を聞いたら
    「仕事と家庭を両立していけるのか」
    「結婚や出産はどのタイミングで出来るのか」
    といった質問を次々に受けたけど…
     
    桐野 これだけ女性医師が増えつつある中で、
    20年前の私と同じ不安を抱えていることに驚いたのよ。
         
     


     

     日本においては長い間、
    全体の医師の数に対して女性医師の数は10%以下だったのだが
    2004 年に15%。2010年には18% を超えて、今も増加し続けている。
    特に20 代の医師の増加が大きいという話を聞いたことがある。

     もしも男女比がこのままであれば、2040年には医師全体でみても、
    3割が女性医師になる、といった試算も示されているらしい。
    医療の最前線で働き続けている二人にとって、この時代の移り変わりには、
    女性にとってどこか感慨深いものがあるのだろう。



     

    桐野 …だからこそ、
    チーム医療の強化が、すごく重要になってくるわね。




     
    桐野 確かに医師ならではの“両立の難しさ”はないとは言えないです!
    私たちは常に人命に直結する立場にあるんですから!!
     
    桐野 だからこそ、やはり医師もシフト制で働いたり、仕事を分け合っていくということを、さらに一般化させていくべきです!!!



     
    桐野

    チーム制にすればフルに働けない人だけでなく、
    全員の負担が軽くなり、皆が働きやすくなる。

     
    桐野

    それが結果的に、
    患者さんへのケアの質の向上にもつながるからね。





     
    桐野 そう!チームでカバーし合うことで、
    物理的な負担はもちろん、心理的な負担も大幅に減るし。
     
    桐野 “自分じゃなければ解決しない”一人主治医制ではなく、
    チーム主治医制の方が色々と働きやすくなるからね。


     
     
    桐野 そうなんです!…それと
     
    桐野 ……ん? 桐野くん!!!
    いつからいたの!?





     
    桐野

    あ、おつかれさ…





     
    桐野 あとですね!!!
    …私が言いたいのは!!!…



     
     
     

    熱のこもった二人の会話に、いつの間にか僕は圧倒されている。
    女性医師の現在を目の当たりにした。出る幕がない、とはまさにこのコトだ。


     男性同士の会話とは確実に異なる、「現実的」な世界がここにある。まだまだ現実から離れている僕の存在感はなんだか薄れていくばかりだ。そして、熱のこもった会話はまだまだ続く…。





     

    ゲカイチフッタ

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