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    いろいろなアプローチ


     
     

    正月休みも終わり。おせちやお雑煮が詰め込まれてふっくらとしたお腹を撫でながら、
    早くも僕は今年のゴールデンウィークの予定を練っている。
    備えあれば憂い無し。
    今年は九州を出てみようかと考えている。
    関西、関東、この際、北海道も悪くない。
    本屋で旅雑誌を大量に買い込む。各地のグルメや、秘境の温泉、
    若い女性に人気のスポットなど、それなりに流行の最先端を細かくリサーチするけど、
    なかなかピンと来ない…。
    そんな時に限って現れるのが秘かに尊敬するこの人だ。



     

    桐野

    桐野くん、旅行の計画ですか?



     
    桐野 あ。ええ、
    ゴールデンウィークの予定を 立てようかなと思いまして


     
    桐野

    ほぉほぉ。
    遊びに勉強に、全てにおいて、熱心なことはいいことです



     
    桐野 ありがとうございます!

    ちなみにどこかオススメの場所はありますか?


     
    桐野

    大阪!

     


    待ってましたと、言わんばかりの早さで半田先生は即答した。




      

    桐野 大阪… ですか?


     
    桐野

    大阪といえば、食べ物、歴史、文化全てが独創的で魅力に溢れ、
    一度は味わいたい西日本一の繁華街。
    私も若い頃はよく遊びに行ったもんです。

     
    桐野

    ちなみに桐野くんは行ったことあるの? 大阪。



     
    桐野 まだないんです。USJには一度は行ってみたいと思っています。
    あと、本場のタコ焼きも食べてみたいですねぇ…。
     
    桐野 あと、女の子も積極的な娘が多いんですよね?
    大阪。いいかもなあ…。


     
    桐野

    はい、大阪で決まりですね!
    ところで桐野くん、

     
    桐野

    今、我々ゲカイチの研究しているテーマのひとつに
    【がん幹細胞】というのがありますが、知っていますか?



     

    なんだかいつもに増して強引な流れを感じたのだが、
    半田先生にとっての「本題」は、どうやら僕の旅先ではなく、
    その【がん幹細胞】にあるようだ。





     
    桐野 がん幹細胞、、、ですか?


     
    桐野

    そう。いわゆる“がんの親玉”といったとこかな。 
    がん細胞に【がん幹細胞】が存在することは、
    1997年カナダにおいて、白血病で初めて発見され、
    2003年に乳がんでも報告されたんだ。

     
    桐野

    そして2005年、日本でも大腸がん、
    続いて肝臓がんの報告をしたんです。
    現在、【がん幹細胞】の研究は各国で盛んに行われているんです。

         
     


     

    はじめて聞いた言葉ではあるものの、
    「がん幹細胞」は発見されてからの歴史も浅く、
    まさにこれから解明されて、発展していくテーマであることはわかった。



    と、そのとき、そのタイミングでドアが開いて、誰かが入ってきた。




     

    桐野

    ここから先は私が説明いたしましょう。
    いいですね?半田先生?

    最近出番が少なくて退屈していたのですよ。



     
    桐野

    ええ、どうぞよろしくお願いします(笑)



         
     



     

    突然の江良井教授の登場に驚きもありつつ、
    (確かに、最近出番がなかったな(笑))

    江良井教授の活き活きとした様子に刺激されて、僕の関心も引き込まれた。





     
    桐野

    わかりやすく言えば、
    人の形になる前の受精卵は、胃や脳や心臓など、
    どの部分にもなりうる能力を持っていますよね。
    それが、細胞分裂を繰り返すうちに心臓になったり、
    腸になったり、それぞれに分かれていく。

     
    桐野

    そういう段階ではいろいろな部分になりうるという意味での
    「幹細胞」。癌の働きにも同じことが言えるのです。



     
    桐野

    以前、講義で“癌は病気ではなく体の一部”と習いました。
    また、誰でも癌になるわけではない。

     
    桐野

    たとえ癌細胞があったとしても、
    間質がそれを包んでいる間は大丈夫という話も
    聞いたことがあります。
    しかし、「幹細胞」については勉強不足でした。




     
    桐野

    幹細胞と、通常の癌細胞は性質が違うのですが、
    見分けをつけることは困難です。
    ひょっとすると役割分担、命令系統があるのかもしれません。



     
    桐野

    まるで会社組織…みたいですね。




     
    桐野

    おっ、いいえて妙だね。本社の命令で支店が活動する。
    そんな感じに例えるとわかりやすいね。

     
    桐野

    幹細胞が、他の癌細胞に
    何かしらの指示を出しているのかもしれませんね。



     
    桐野

    なるほど。




     
    桐野

    だからといって、
    たとえば…もともと胃にあった癌が肝臓に転移したからといって、胃にあった癌を全部切除したとしても

     
    桐野

    転移した先の癌もなくなるというわけでもない。
    というのが不思議なんですねぇ…。これが。




     
    桐野

    【がん幹細胞】…。
    癌って、奥が深くて、なんというか…
    “そそられます”ね。




     
    桐野

    “そそられる”ですか…(笑)
    【がん幹細胞】という発想は確かに魅力的で、
    考え方も非常にスマートだけど、
    やればやるほど複雑多岐にわたっています。

     
    桐野

    1つのアプローチでも十分期待出来る反面、
    まだまだ疑問も多く、我がゲカイチでも、
    もっともっとやっていかなくてはいけない分野のひとつなのです。



         
     
     

    【がん幹細胞】。20世紀の終わり頃に発見されて、21世紀に解明されてゆく。
    これはまさに、これからの時代の課題であり、
    これかの時代を生きる“僕たちの宿命”とも言えるような気がした。




     
    桐野

    そういえば、桐野くん。
    大阪大学にはがん幹細胞の第一人者である
    森教授という方もいらっしゃいますよ。

     
    桐野

    鹿児島出身で、我々も親しくさせていただいています。
    もしも旅行で大阪に行くのであれば、
    ぜひ、彼と会うことをオススメしますよ。

     
     




    なるほどね、それで大阪を勧めたのかと納得が出来た。
    大阪で会えるチャンスがあるのであれば、いろいろな話を聞いてみたい。

    あとはもう1つのアプローチ。知っておかなければならない分野…

    大阪の“若い女性に人気のスポット”についても情報収集を続けてかねば。
    とにかく今は少しでも、偉大な先生方の期待に応えられる努力をしていくつもり。
    うん今年も楽しくなりそうな予感だ。




     

    桐野

    ありがとうございます半田先生。
    久しぶりに長々と話が出来た良かった(笑)

     
    桐野

    では、喉が渇いたので、久しぶりに夜の町にでも繰り出して
    熱い話でもしますか? 先生




     
    桐野

    お、いいですね。行きますか。



     
     

    この二人も相変わらずな様子で、今年のゲカイチも楽しくなりそうな予感だ。




     

    ゲカイチフッタ

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