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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
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    深刻な現実。


     
     

     半田先生が深刻な表情で医務室から出てきて、
    10m ほど離れた僕の場所まで聞こえる大きな溜息をついた。

     おそらく…半田先生も毎晩観ているといつか言っていた昨夜の“ニュース番組”の「特集」のせいだろう・・・
    「特集・外科医師、減少の現実」“医師の地域的偏在や、診療科の偏在”について、
    お馴染みのニュースキャスターが重い口調で日本医療の「現実と未来」を憂いていた。
    暗いニュースこそ、明るい口調で読んで欲しいと思うのは身勝手な想いとは知りつつも、
    その現状に、蓋をしたくなるのも正直な気持ちだ。
     医師を目指す学生である身分の僕でさえそう思うのだから、現役の先生方にしてみれば、その心境は複雑だろう。とりわけ、“外科医師の不足”が深刻な問題なのだ。 研究室では外科医を目指す学生を育てる役目の『ハンター』半田先生にとっては、これはかなり深刻な現実だろう。



     

    桐野

    お疲れさまです、半田先生!





    思い切って話し掛けてみることにした。
     

    桐野 仕事、大変そうですね・・・
     
    桐野 おぉ桐野くん、こんにちは
     
    桐野 昨日のニュース観ました。
     
    桐野 ん?何のこと?
     
     




     コトの重大さに頭を抱えている半田先生は「トボける」ことを選んで話を反らすつもりなのか。

    よし、ここは“外科医師を目指す若者の意識の高さ”を見せつけるにはいい機会だ。


    と意気込み、話を続けた。




     

     

    桐野 いつもの夜のニュース番組で、
    「外科医師の、減少の現実」という特集が組まれていました。


     
    桐野 ほぉほぉ。どんな内容?



     
    桐野 つい最近言われていたのですが…

    小児科医や産婦人科医、救急医は 減少傾向にあるとのことだったのですが…
     
    桐野 民意が国を動かしたのか、色々な政策がとられ、
    ここ数年増加傾向にあるとのことでしたが…
     
    桐野 …えっと…外科医を志す若い医師が激減していて、
    将来の外科医療が成り立たなくなるのではと危惧している専門家もいる
     
    桐野 …といった内容で…
    その担い手の減少により悪化する労働環境や、
    その悪循環は総合的に…
     
    桐野 国の全面的な医療崩壊を招く最悪のシナリオが
    現実のものとなりかねない…
     
    桐野 という具合に、不安を煽るようなことを言われていました





     
    桐野 長いな。(笑)相変わらずメディアは大袈裟なことを言う。

    これだから苦手なんだよ



     
    桐野 外科医離れにうちの教室も
    手をこまねいてばかりいるわけじゃないんだよ。
     
    桐野  毎年、高校生を対象とした外科体験セミナーを行っていて、
    受講した学生らは医師を志す気持ちがかなり強くなった。
    という感想を言う人もすごく多いし、
    ご家族からもそういったお手紙が来たりもしてます。
     
    桐野 また、医学部の学生さんや研修医に動物を利用しての外科的手技講習や
    ドライボックスの腹腔鏡実習など、積極的に教育し、
    興味を持ってもらうようにしてますよ。
     
    桐野 もちろん、夜は懇親会付き!(笑)。
     
    桐野 最近は女子学生も増えてきているから、
    女性からのアンケート・要望を聞いたり、
    女性外科医のための色々な取り組みもしているよ。
     
    桐野 ああ…僕も女子会に参加できたらな…(笑)。


     
    桐野 というわけで。

    なあに、そんなに心配し過ぎることはないよ!


     
    桐野 はあ…そうなんですね。

     



     

    本来、外科は…患者に接する機会の多い治療学としての魅力に溢れて、
    最初から最後まで患者さんに付き添えるのは医者の醍醐味ともいえる。 

    それに自分が必要とされているという『強い実感』。
    『仕事に対する高い評価』をダイレクトに得ることができる職場でもある。
    

     また、近年の医療科学の発達における腹腔鏡手術の導入などで、
    チームワークを図りやすくなったこと。
    手術時間の短縮で体力や腕力があまり要求されなくなったことで、
    外科医のストレスもかなり軽減しているのも特長のひとつ。 

    一般的に言われる「外科医を敬遠する理由」の幾つかは、
    現場の先生方の配慮と努力で年々改善されている実感はある。





     
    桐野

    それにね。地域医療って、なんだかんだいいながら、
    全身管理ができてなんでも診られるキャパが必要だから
    外科医の出る場面も多いわけ。

     
    桐野

    都会の専門性も大事だけど、
    地方のジェネラリストの養成もしっかりしていく必要がある。

     
    桐野

    ん〜、つまりは、外科医はいろんなところで頑張ることができる。
    ってことを伝えたいわけです!

     
    桐野

    “外科医”。なんて素晴らしい響き!

     
    桐野

    あぁ、希望に燃えますね!

       
     


     

     半田先生の力のこもった声を聞きながら、心のどこかで安堵する自分がいる…。




     

    桐野 ・・・じゃあ、なんでさっきあんなに大きな溜息を?
       
     



     

    頭の中の疑問符が膨らんではじけた。





     
    桐野

    ん?そうか、ふふふ

         
     
     

    いつもの様子で、優しく微笑む半田先生を見るとなんだか安心する。




     
    桐野 てっきり、昨日のニュースを観て悩んでいられるのかと思いました。
     
    桐野

    そんなことで悩むわけがないよ。もっと深刻なことが起きているんだ。



     
    桐野 え?


     
    桐野

    実は、また太っちゃってね。

    妻からも日頃から、うるさく言われているのにね。



     
    桐野 はぁ…。
         
     
     
     

    取り越し苦労とはこのことだ。
    ひとまず、半田先生の暗い表情の原因を知ることが出来て良かった。


    …それはそれとして、現代医療の問題点が完全に払拭されたわけではないのも事実。
    

     不安に囚われ過ぎずに、前向きに。
    とりあえず、一日も早く半田先生にはまたダイエットに成功してもらって、
    まだまだ最前線で頑張ってもらわなきゃ。

    よし、とりあえず“半田先生のために”、
    サークルのみんなに声かけてスポーツ合コンでも計画してみるか。
    これも『医者の仕事の1つ。』ですからね。





     

    ゲカイチフッタ

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