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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
  •  ゲカイチヘッダ
    迷わず行けよ。  行けばわかるさ。


     
     

    夏は、あっという間に終わる。

    四季はあっさりと移ろい、また、次の季節に景色を変えていくが、
    人も“季節”のように、潔く変わることが出来ればもっと、
    生きやすくなる気もするんだけどなあ…なんて少し叙情的なのも初秋のせいなのだろう
    と、一人ごち、夏の合コンで出会った社会人一年目のOL のことを考えながら
    昼休みに公園のベンチに腰を掛けて、ぼんやりと飛行機雲を眺めていた。



    そんな時、「桐野くん?」と突然大きな声を掛けられた。
    見知らぬ顔の男性が立っていた。白衣を着ているということは先生だろう。


    とりあえず「はじめまして」と返してみる。

     

    桐野

    はじめまして。いつも半田先生からキミの話を聞かされています、
    ようやく会えましたね。

     
    桐野
    あ、僕は下口と言います。
    今年、入局して、7 月から出張病院に勤務しているんですよ
     
    桐野 あ…下口先生、はじめまして。桐野です、よろしくお願いします






    半田先生から聞かされている“僕の話”がどういった内容なのか、
    色々と不安は募るものの、下口先生の表情を見る限り、
    そう悪く伝えられてはいないのだろう。
    と勝手に判断することにした。


    今年入局のルーキー、爽やかな表情とは裏腹に、さすがに疲れているのだろう、
    よく見ると目の下に立派なクマが出来上がっている。
     


     

    桐野 仕事、大変そうですね・・・
     
    桐野 そうなんですよ、今日も朝から研究会に参加してきたのですが、
    緊張しすぎたせいか昨日はほとんど眠れませんでした。
     
    桐野 しかも二日酔いで。色々と心配です。笑
     
     




    ????




     

     

    桐野 ・・・二日酔いですか?
     
    桐野 はい、昨日の仕事終わりに教わったばかりの手術内容の復習をして、

    その後で病院の同世代のナースの飲み会に誘われて・・・
     
    桐野 これが仕事よりも疲れるかもしれないな。笑

     



     

    ん?イメージが違う。


    下っ端の外科医として、
    日々、手術や検査や外来やサマリー書きや処方、 患者さんの回診や、
    急変の対応に翻弄されているのかと思いきや、
    ちゃっかりナースとの飲み会も楽しんでいるのか。





     
    桐野

    へえ。それはそれは、さぞかし、楽しそうな毎日ですねえ

     
    桐野

    はい、楽しいですよ!

       
     


     

    意気揚々と答える下口先生の表情は、堂々と、そしてとても明るかった。




     

    桐野

    もちろん、下っ端なので色々なことに対応しなければならない。
    日々、過酷なトライの繰り返しとも言える。

     
    桐野

    でも、誰だって最初から全てがうまく出来る人なんて
    いるわけがないからね。
    完璧、なんてこと有り得ないんだから僕は完全に開き直っているよ。

     
    桐野

    “手術や検査や外来やサマリー書きや処方、患者さんの回診・急変の対応”

    に翻弄されつつも・・・ね!。

       
     



     

    まるで心の内を読まれたかのような下口先生の答えに内心ドキっとした。
    当たり前のことなのだが、改めて気付かされる。

    「攻めの姿勢で楽しむというやり方」 これと似たようなことを去年、
    僕は奄美大島で大川先生から学んだのだ。>過去を参照 10話 11話





     
    桐野

    与えられた環境の中で、120%の力を発揮して頑張る。

    というやつですね

     
    桐野

    そうです。積極的に研究会講習や学会に参加発表して勉強したり、
    学会で発表した内容を論文に仕上げたり。

     
    桐野

    腹腔鏡のトレーニングセミナーや院内講習会での発表なども
    積極的に行うように心がけているよ

     
    桐野

    ・・・そして、

    その後は盛大に遊ぶ。ですよね?

     
    桐野

    そうそう(笑)盛大に遊ぶよ。

    ナースとの飲み会だけではなく、海外旅行に行ったり、
    趣味のサッカー観戦で地方を訪れてみたり、
    秘境の温泉巡りにも最近はハマってるかな…。



     
    桐野

    多趣味ですね。なんだかすごく楽しそう

     
    桐野

    それにね、“下っ端”って存在は楽でもあるよ

     
    桐野

    下っ端が、楽?…ですか

     
    桐野

    そうそう、下っ端だからこそ、疑問に思ったことは何でも聞けるし、
    ある意味、失敗も堂々と出来るしね(笑)。
    経験が少ない分プライドも薄い。

     
    桐野

    わからなければ聞けばいいし調べればいい。
    なんだかある意味自由を感じるんだ

       
     
     

     

    当たって砕けろ、聞くは一瞬の恥。か。なんて清々しい人なのだ、

    まさに新人の鏡のようなお方。
    与えられた環境の中で、前に進む強さ。

    きっと、ナースとの飲み会も、
    誘われるというより 「頼られて」いるのだろうな。





     
    桐野

    ところでさ、病棟実習で、
    長時間の手術に立ち会うと疲れるでしょ?

    肉体的にも、精神的にも

     
    桐野

    はい、正直、自分に外科医が務まるのかと不安になるときがあります。

     
    桐野

    「そうそう、懐かしいなあ。僕もそうでした。
    でも研修医になって、
    違う立場で手術に携わるとその印象は随分と変わりる。

     
    桐野

    何も知らなかった学生時代とは違い、
    解剖、術式を学んでから臨む手術はひとつひとつが勉強になり、
    充実を感じることが出来る。

     
    桐野

    だから大丈夫、不安になんかならなくていいよ

       
     
     
     

    変な話かもしれないが、
    まるで未来の自分がタイムマシンにでも乗って、会いに来てくれたのかと思った。
    今、自分が立っている場所が、 着実に未来へとつながっていることを実感出来た。
    そんな感じ。

     





     
    桐野

    桐野くん、だから早くおいで。ぼくら待っているから

     
    桐野

    じゃ、そろそろ時間だから行きます。
    これから半田先生に会うから、
    ようやく君に出会えたことも報告しておきます。
    噂通りのいい目をしている。なんてね。

     
    桐野


    お互い頑張りましょう!

    ナースさんとの飲み会もね。

       
     
     

     

    そうして、下口先生は慌ただしく公園をあとにした。

    ついさっきまで、公園の端で弱々しく映っていた夏の終わりの木々の葉が、
    いっせいに輝いた気がした。

    さて、次の授業が終わったら後で僕も半田先生のところへ行って、
    素晴らしいセンパイと出会えたことを報告しよう。




     

    ゲカイチフッタ

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