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  • ショートストーリー「ゲカイチ」
  •  ゲカイチヘッダ
    スペシャリスト。


     
     

    窓を閉めても聞こえる蝉の声。暑い日は続く。
    ノートを閉じて、スマホでメールチェックする。


    近頃、バテ気味な気がする。
    勉強、実習を放り投げて友人と海に行きたい気持ちをグっと堪えてみた。

    去年までの自分なら「少しだけだから」なんて言い訳して、友人とプールにでも出かけていただろう。
    だが今年は違う。ゲカイチの先生と触れ合い、日々学ばせてもらっている身としては、
    夏なんかにそそのかされるわけにはいかない。



    …これって成長だな。

    そんな自分がなんだか妙に誇らしく思えて上機嫌で病院の廊下を歩いていると、
    半田先生と森熊先生が立ち話していた。
    二人はとても真剣な表情をしていて、なんだか挨拶をするタイミングを逃す。

    とはいえ、このまま素通りするわけにもいかない気がして、
    しばらく話しかけるきっかけを伺うことにした。

     

    桐野

    最近、腹腔鏡手術がほんとうに多くなりました。

     
    半田先生 我々の若い頃に比べて、
    当然ですが“医学の進歩”には驚かされますね。
     
    桐野 デバイスの進化に伴う技術の進化なのか、その逆もありえますけど。
    安全性や手術の質の向上は患者さんにとっても本当に心強いことです。
     
    半田先生 そうですね、腹腔鏡手術の術跡の小ささや、術後の回復に関しては、
    開腹手術とは比べ物にならない。
     
    半田先生 体力のない子供や女性、お年寄りにとって最良の方法ともいえますし、
    まさに時代に合っていると思いますね


     
    桐野 桐野くん!


    突然こちらに振り向き、はっきりした声で名前を呼ばれて驚く。


     

    桐野 え、はい!
     
    桐野 君は将来的に日本内視鏡外科学会の技術認定医の資格を取りなさい!
     
    半田先生 久しぶりですね、桐野くん。
    半田先生が仰った“技術認定医”の資格は僕からもお勧めするよ!
     
    桐野 技術認定医、、、ですか?
     
    半田先生 そう。腹腔鏡手術に関する基本的な修練はもちろん、
    特別な技術習得・慣れが必要だけど、これからは癌の手術や、
    あらゆる臓器、全ての臓器における手術で
    腹腔鏡が使用されるだろうからね。
     
    桐野 それを踏まえた上で、技術認定医の活躍の場は広がることでしょう。
    術式の豊富なレパートリーと、安全で適切な施術を習得することは、

    君や、君の患者さんにとっても大変有意義なことだと思いますよ。
       
     






    挨拶もろくにしないまま、会話に混ざり、
    話の流れで「内視鏡の技術認定医」になることを勧められている。

    尊敬する二人の先生から、そういう風に言われることは正直に嬉しい。ヤル気も沸いてくる。



    腹腔鏡手術については知識がまったくないわけではない、
    以前、森熊先生に誘われ参加した講演会(Vol.9 情熱のイチョウの木 参照)では
    腹腔鏡手術に関するこれまでの展開と、これからの展望を学んだ。 

    日本における腹腔鏡手術は発展途上の部分もあるが、
    専門を越えて情報を共有し、技術を磨いていこうとする空気は確実に広がっている。
    留まることのない挑戦の繰り返しが未来に繋がっているのだ。

    モニターを観ながらの手術は、腕力のない女性や、視力の劣った人、
    手術に入っていない周りのスタッフや、研修期間の学生にもその“術野”を共有できて、
    非常にわかりやすいという点からも、
    「一人のスペシャリスト」の存在はとてもメリットがあるということ。


    その「スペシャリスト」になることを勧められた…。
    これは僕という存在に対する期待でもあり、評価ともいえるかもしれないな…。
    そう考えると身体が熱くなる、モチベーションが上がる。
    テンションも高まる!


     





     
    桐野 はい! 将来、技術認定医の資格。取ってみせます!
       
     

    背筋を伸ばしてそう答えた。

     
    桐野 ここは病院です、声が大きすぎますね
     
    半田先生 そうですね、ヤル気があるのは結構だけどね。

     



     

    と言って二人は笑ったような怒ったような表情をみせた。





     
    桐野

    あっ、すみません。ついつい、、、興奮しちゃいました。

     
    半田先生

    まぁ、いいじゃないですか。その調子。その調子。

     
    半田先生

    くれぐれも
    “友達とプールでナンパしよう”
    なんて考えずに頑張ってくれよ。

     
    桐野

    さて、じゃあカキ氷でも食べに行きますか。

     
    桐野

    桐野くんのおごりで。

     
     
     

    僕は小さな声で「ハイ…」と返事をした。






    毎年のように繰り返す、夏の海やプールの誘惑。
    小さな努力が未来の自分と医学の環境を変えて行く。


    ああ…外に響く蝉の鳴き声が、今日は少しだけ心地良いい。







     

    ゲカイチフッタ

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