鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチ

Vol.58

ー 人間力! ー






 明日までに提出しなければいけないレポートがまったく進まず、気持ちばかりが焦っていた。
そんな時に限って、急な用事を頼まれたりするもので……。急ぎ足で教授室へと向かう。





桐野

ブツブツブツ…………。







 教授室へと足早に向かう最中、自分でも気づかないくらい小さな声で愚痴をつぶやいていた。
その漏れてしまっていた心の声をちょうど僕の後ろを歩いてた新入局員の永山先生と園部先生に聞かれていた。








桐野

桐野くん!大丈夫!?






桐野

えっ。あっ、はい?






桐野

(笑)なんかブツブツ言ってたよ。






桐野

えっ?僕が…ですか?






桐野

うん。






桐野

え…。全然気づきませんでした。






桐野

なんかあったの?よければ聞くよ?






桐野

ありがとうございます(泣)。
じ、じ、実は、明日までに提出しなきゃいけないレポートが全然終わらなくて…
焦っている時に限って、忙しくなっちゃって…………。







 優しい先生方に愚痴を聞いてもらいながら歩こうとしたけど、いつの間にか教授室に到着。






桐野

桐野くんも大変だね。
でも、みんな医師として成長するために通ってきた道だからね。






桐野

そうそう!






 「ハハハ!…」
 教授室の隣にある医局長室から大きな笑い声が聞こえる。






桐野

迫野医局長ってすごく忙しいのにいつも笑顔だよね。






桐野

そういえば…。ですね。






桐野

桐野くんも、こういう時こそ笑顔だね!






桐野

実は、僕たち国家試験で一度失敗しちゃったことがあってね。
その時に、とても親身になって話を聞いてくれたり、迫野医局長にはとてもお世話になったんだ。






桐野

そうなんですか?






桐野

そうそう。
医局長って毎週の行事の把握伝達はもちろん、
ラボさんとの調整や医局員のサポート…


桐野

他の医局や製薬会社などの外部との調整なんかもされているから、
本当は目が回るほど忙しいのに、わざわざ時間を作って話を聞いてくれたりしたんだよ。






桐野

その上、学会や研究会は目白押しだし、
医局旅行や忘年会・同門気の準備に医局誌の発行、新入局員のリクルート、
あと、苦情の窓口を請け負ったり、本当、大変な職務だよね。






桐野

…想像しただけで体調が悪くなってきました。






桐野

はははははは。




桐野

そうだよね(笑)。






桐野

医局長の仕事を一言で言うと『縁の下の力持ち』。
まさに迫野先生にぴったりな言葉かもね。
だから、人望も厚い。






 僕たちの話し声が聞こえたのか、医局長室から噂の迫野医局長が顔をのぞかせた。




桐野

あれ?永山先生に園部先生。それに桐野くんも!
3人揃って、どうしたの?






桐野桐野

おつかれさまです!






桐野

二人とも頑張っているみたいだね。
二人が一生懸命取り組んでいるって話を聞いて、私も鼻が高いよ!






桐野

あの時は本当にお世話になりました!






桐野

ここで頑張ることができるのも、迫野医局長のおかげです。






桐野

いやいや。私は何もしてないよ。二人が諦めずに努力した結果だから。
こうして二人と一緒に仕事することができて本当にうれしいね。






桐野桐野

ありがとうございます!






桐野

医局長業務は大変だけど、永山先生や園部先生はもちろん、
桐野君のような若手が外科を志してくれるのが、
この業務をやっていて一番の癒しになるし、やりがいがあるね。





 3人が笑顔で話をされている姿を見ると、なんだか僕もうれしい。





桐野

あっ!そうそう、桐野くんちょうどよかった!






桐野

えっ、なんでしょうか?






桐野

半田先生からお聞きしたんだけど…
桐野くんってイベントを仕切るのが上手いんだってね?






桐野

えっ!?






桐野

桐野くんはゲカイチのイベント番長って言われてるって半田先生も言ってたよ(笑)






桐野

…(半田先生…!)






桐野

ちょうど来週、来年の医局旅行のためのミーティングがあるんだけど参加してもらえないかな?






桐野

医局旅行のミーティング…ですか?






桐野

そうなんだよ。こういうことは得意な人にお任せしないとね!

桐野

仕事も遊びも訓練訓練!
いやぁ、助かるよ。ありがとう!






 ミーティングへの参加の可否を言う前に、もうすでに参加の方向で決定しているみたいだ…。





桐野

イベント番長!頼りにしてますよ(笑)






桐野

来年の医局旅行が楽しみだね(笑)






桐野

ほら、みんな期待してるよ!
一つのことにこだわらず、何事にも一生懸命取り組むことが大切だからね。


桐野

僕は…、『利他の精神』が、患者さんを診るときの心構えとして
非常に大事なスピリッツだと思っています。


桐野

医局長業務もその延長の感じだと思っているよ。







桐野

わ、わかりました!頑張ります!







 なんだかよくわからないが引き受けてしまった。
でも、それほどいやな気持ちがしないのが不思議だ。これが医局長の『人間力』か…。






桐野

あっ!それに忘年会の幹事もあるんだけど(笑)






桐野

…そういえば、半田先生から江良井教授に資料を届けるように言われてたんだ!






桐野

江良井教授に届ける資料?


桐野

それなら、江良井教授に急用ができてしまったので明日にしてくださいって、
先ほど医局にはお伝えしたんだけど…。あれ?聞いてなかった?






桐野

え…。あ…。






桐野

…桐野くん?






『一つのことにこだわらず、何事にも一生懸命取り組むことが大切だからね。』
医局長の言葉が目にしみる。


そうだ、仕事も遊びも訓練訓練。
そうとわかれば今日中にレポートを終わらせて、医局旅行ミーティングの段取りを立てるとするか…。


ハハッ…ハハッ…。



桐野

桐野くん?…笑顔が引きつってるよ…。






桐野

えっ。 あっ。 はい…。






…『縁の下の力持ち』には、まだ遠い…。








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