鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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ゲカイチでは他県で外科医として活躍され、鹿児島へ戻ろうと考えられている先生方に、留学や博士号などのご要望について、医局長が直接ご相談にのっています。
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巻頭言

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 2010年は1月初めの雪に始まり、大晦日は20cm以上の積雪となる大雪で1年が終了しました。
 地球の温暖化といわれる中、政治、経済のみならず気象までもやや大荒れの感がしました。しかし、本年度が大過なく過ごせましたことに同門・教室、関連病院の先生方に厚く御礼を申し上げます。
 2010年3月に愛甲 孝先生が任期満了で無事に定年退官されました。永年、教室を牽引されてこられましたご尽力とご指導に心より感謝申し上げます。退官後の9月には第12回国際食道疾患会議を成功裡に終了されました。今後も後輩外科医に対して、大所高所からご指導いただければ幸いです。
 

4月には新入医局員5名を迎えることができました。

 地方の医師不足と全国的な外科医不足が重なり、地方の外科医療の危機的状況が続いている中で、外科医療に取り組む意気込みをもった明るいはつらつとした医師が入局してくれたことは望外の喜びでした。組織の中に新風が吹き込まれることは、活性化の源になります。新入医局の先生方は伸び伸びと診断・手術手技を習得すると同時に、先輩たちの良き外科魂を学んで欲しいと思います。教室員のみならず、同門の先生方や関連病院の先生方には引き続き宜しくご指導をお願いいたします。


10月には呼吸器外科学教室が新設されました。

 教室の伝統での一つであります呼吸外科がさらに良い方向に発展する様に協力していきたいと思います。日本外科学会の4本柱である消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科で若い医師が専門医を円滑に取得できるように各科と団結し、外科医師の増加に努力していくことが重要です。外科医師の増加が地域医療の改善に有用であることは間違いありません。地域医療に従事している外科医を励ますためにも、各地域の医師会の先生方のご協力とご理解を宜しくお願いいたします。

 さて近年、日本からの海外への留学生が減少していることが報じられています。米国最古の歴史を誇る私立の名門、ハーバード大学では、学部・大学院を合わせた国別留学生数で、日本は1999~2000年度に151人でしたが、2009~2010年度には101人に減少しています。
 同期間に、中国は227人から2倍以上の463人、韓国は183人から314人に急増しています。ハーバードの力は、優秀な学生同士が刺激し合うところにあると学長が述べています。中国、韓国が増加したのは経済的・国民的背景があり、以前と比べ、経済的に豊かになり、海外に出る余裕が持てるようになったことが挙げられています。確かに韓国を訪問すると国全体の熱気を感じます。

  消化器外科の分野でも、韓国では鏡視下手術やロボット手術が急速に発展し、大学間の競争、交流が盛んです。また韓国や中国からの消化器外科に関する大規模な臨床試験の結果を一流英文誌で見る機会が非常に多くなりました。本邦はすでにこの分野ではリードされ始めていることは否めません。
 しかし、日本の伝統である繊細な診断技術、正確で巧妙な手術手技は世界に類をみない卓越したものであることは間違いなく、基礎研究に基づく外科臨床への応用などに関しても、さらに進展させなければなりません。地方大学から世界に向けて情報発信できることはたくさんあります。
 教室でもこれまで行ってきた臨床的診断、外科手技、translational researchを若い人に伝授しながら、一層推し進めていきたいと考えています。

 もう一点、海外の大学に日本人が少ないという現状の背景に、日本での少子化や大学全入時代、経済不況などの要因が考えられています。さらに日本の学生や教師は海外で冒険するより、快適な国内にいることを好む傾向、子供たちは内向き志向、安全志向の傾向があることも挙げられています。教室の若い先生には是非留学を経験して欲しいと思います。若い時から狭い見聞のみで過ごし、生活の安定化を目指すのではなく、医学のみならず国際的視点も学び、大局に立った懐の深い外科医に成長してほしいと思うからです。現在は外科医不足で人的制限がありますが、若い先生方には国際社会に乗りだして、色々な経験を積もうという熱い魂を持つことを望んでいます。

 さて、昔から天気を占う「観天望気」という言葉があります。自然現象や生物の行動の様子などから天気を予想することを指し、漁師、船員などが経験的に体得し使ってきたことわざです。その地方に住む人々の経験や言い伝えにより、山にかかる太陽、月、雲の動きや動物の行動などで気象の変化を予測する方法です。気象の変化を先読みし、早めに帰港する等、海難の未然防止に役立ててきました。統計的に気象庁の天気予報の的中率は80%程度で、残る20%は「観天望気」から予知できる場合が多いといわれています。自然を対象にした場合に用いられてきた「観天望気」ですが、実は医学や手術に通じるところがあるように思われます。

 大規模な臨床試験で得られたエビデンスの高い研究はガイドラインとして採用されます。概ね標準治療として正しいのですが、臨床現場で自分の担当の患者さんには各々の既往歴、合併症があり、ガイドラインに当てはまらない場合もあります。その際、これまで自分が実臨床で経験してきたことを参考にして、目の前の患者さんの状態に応じて治療法、手術法にminor changeを行い工夫することも必要となってきます。
 一例一例を大切にしていく姿勢から得られた知識を基に、術中の出血、臓器損傷、術後に予測される合併症、QOLの低下など予測して術式の選択や手術を遂行することが重要となります。実験の際も予測される結果を推測して仮説を立て、方法を組み立てていきますが、実験が上手くいかない時に、教科書や文献に記載されていない先輩から教わったちょっとした経験的な手法で実験が上手くいくことが往々にしてあります。私たち外科医には臨床や研究で貴重な経験を積み重ねることにより、予期しない事態を予測する「観天望気」の姿勢が必要であると思われるため、ここで紹介いたしました。  

 日々の診断・手術手技や周術期管理など臨床経験を積む時、将来臨床に役立つ研究を行う時には、絶え間ない努力(Endeavor)が必須です。努力の過程は苦労、失敗、挫折は付き物ですが、目的を達成した時の喜びをイメージしながら、過程を楽しんで (Enjoy)欲しいと思います。さらに得られた貴重な経験を同僚・後輩に伝え、励まして(Encourage)ください。今年も教室員一同が志を一つにして頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
 

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学

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