鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学
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巻頭言

巻頭言


 今年度明るかったニュースのひとつが2020年の夏季五輪・パラリンピックの開催地が東京に決定したことでした.東北大震災や政治の低迷など意気消沈していた日本中のムードが一転しました.前回の東京オリンピックは1964年に開催されました.私は当時小学生で,体育館に設置された白黒テレビの前で,東洋の魔女と言われた女子バレーボールや男子体操などを手に汗握り応援したことを覚えています.同門・教室員の先生方で東京オリンピックをreal timeに体感された方は半分以下だと思います.逆に半数以上の先生は未だ生まれていなかったことを改めて認識しますと,時代の変遷を実感いたします.次々回の日本開催オリンピックを楽しみに待ちたいと思います.
 さて,私が教授に就任して5年が経過しました.地方医療の崩壊や外科医不足が叫ばれる中,教室員が一丸となって頑張ってきたことを誇りに思います.大学病院では2013年の年末,消化器・乳腺甲状腺外科病棟が旧4階東病棟より新病棟(C棟)4階へと移転し,新たな気分で診療に取り組んでいます.桜島を眺望できる病室,明るく広々とした病棟は患者さんのみならずスタッフにとっても和やかな空気をもたらしています.一方,関連病院で診療をしている教室の先生方が地域医療を守るために日夜奮闘していることが様々な方面より伝えられています.皆さんが毎日頑張っているからこそ,その成果を何らかの形で残していくことが重要だと,私は考えています.

 教室関連では,本年度1月に大脇哲洋先生が地域医療学講座の教授に就任されました.大脇先生は,2007年に5年間の期限付きで発足した「離島へき地医療人育成センター」の特任教授として赴任されて以来,日本全国そして離島を飛び回り学生,研修医教育に尽力されてきました.今後は益々多忙となると思いますが,是非僻地・離島を多くかかえる鹿児島の地域医療の人材育成のために頑張って欲しいと思います.4月には8名の新入教室員を迎えました. 4名は女性医師です.男性4名は外科医としての気概を感じるガッツのある好青年で非常に楽しみです.女性4名は学生,研修医時代を通じて外科医を志しており,外科医になるという目的意識をしっかりと持っていました.医学部入学者の女性が占める割合を考えると,今後はいかに女性外科医を育てていくかが日本全体の大きな課題となっています.医師としての甘やかしは不要ですが,出産,子育てなど家庭的問題の理解は教室全体で考えていく必要があります.逆に女性外科医が育たない教室は組織としての問題をかかえていると思われます.この問題に関しては,大学のみならず関連病院でも働きやすい環境の整備を行っていく必要があります.男女を問わず,外科医が伸び伸びと活躍できる職場環境を整えることが,外科医減少の歯止めにつながりますので,教室全体で,改善すべきところは改善をしていく努力が必要と考えています.


 本年度は萩原貴彦先生が学位を取得されました.また,新地洋之,喜島祐子,田上聖徳,松下大輔の各先生が学会賞を受賞されました.今後も臨床や研究に邁進されることを期待します.また,ベッドフリーや大学院での研究・実験が終了し博士論文作成途中,あるいはこれから論文作成という先生方は,各人の中での締切日を決めて投稿・掲載という形で,費やした時間の研究を完成させて欲しいと思います.

 この原稿を書いている時に,ソチで冬季オリンピックが開催されています.4年に一度のチャンスに向けて努力を重ねてきた選手の姿には感動を覚えます.晴れ舞台の裏では怪我との戦いや精神的ストレスなど多々あったと思われます.オリンピックの出場権の獲得,そして表彰台を目指して様々な雑念を振り払い,ひとつのことに集中する心,一意専心の気持ちで取り組んできた結果だと思います.なかでも41歳の葛西紀明選手の活躍は目をひくものがありました.スキージャンプの選手として20年以上, 7度目のオリンピックで初のメダルとなる銀メダルを獲得しました.個人戦より団体戦で銅メダルを獲得した時に,「後輩たちに絶対メダルを取らせてあげたいと思っていた」と涙ぐんでいた表情に感激しました.まさに「レジェンド(生ける伝説)」に相応しい活躍でした.医学の分野でも生き方の面では,スポーツと共通した心構えが必要なことは,皆さんも感じていると思います.「発明・発見は執念から」という言葉がありますが,日常診療の中で得られた経験や,知識を深めるための努力を重ねていくことで,新たな治療につながる基礎研究が目を出し,さらには臨床応用に開花するのだと思います.

 臨床あるいは基礎研究で得られた成果を論文として記録に残すことが重要であることは論を待ちません.貴重な臨床経験や実験結果は,まとめるという作業で整理されひとつの形になります.自分の書いた論文が世の中に対して,どれだけのimpactがあるか問うことも大切です.腹腔鏡手術やSentinel node navigation surgeryのように,発表当時はあまり重要視されなくても後世で高く評価される例も多々あります.これまで教室でおこなってきたEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition:上皮間葉移行)に関する研究では,掲載された論文を見たペンシルバニア大学から共同研究の申し出があり,今年度その成果がCell Stem Cell (IF:25.315)に掲載されました.
 同様に胃癌のEpstein-Barr virusの国際研究の結果がGut(IF:10.732)に,胃癌Sentinel node navigation surgeryの多施設協同研究の結果がJournal of Clinical Oncology (IF:18.038)にそれぞれ掲載されました.教室で実施された研究はたとえ目立たないものでも,論文として発表することで,世界の誰かが見て評価されるポテンシャルを持つものになることがよくわかります.芸術家,音楽家や作家が作品を,スポーツ選手が記録を残すように,私たちも今の医療を生きた証として臨床や研究成果を残す努力をしようではありませんか.大学在籍者のみならず関連病院出張者もぜひacademic mindを忘れずに何かを残すことを念頭に置いて,毎日を過ごして欲しいものです.そしてそれは個人のためだけではなく,教室全体の財産になることも覚えておいてください.

 私たち一人一人にとって,「今を生きるため」に「自分のなすべきことは何か」を熟考することが必要です.個人によっても,年齢によっても様々異なりますが,目標を定めて一意専心邁進することが重要です.後になって振り返ってみるとturning pointとなる重要な場面があるものです.このturning pointは何回もないかもしれません.それが今かもしれません.人生においてある時期ある期間,寝食を忘れてhungry精神のもと全身全霊を尽くすことが大切です.何かを達成するために希望(hope)を失うことなく,弛まぬ努力と熱いheartを持ち続ける必要があります.この精神のもと,この一年間なんらかの成果が出て,さらに良い年になるよう私も指導・サポートをしてまいりたいと思います.  

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 外科学講座 消化器外科学

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